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金属触媒とシリカゲル(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 この記事を読んでいるあなたがもし高校生なら「触媒」という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。触媒は「化学反応を加速するが、それ自体は変化しない物質」のことです。でも少し真面目に考えるとこの定義は変ですよね。だって自分は変化しないのに他の分子の反応を早くする、なんて不思議な話です。

おい、そこのおまえ(分子)、あっちの分子と反応しろよ!

いえね、あなた(分子)には、あちらの分子がほんとにお似合いだと思うのよ。

いや、分子や触媒にコミュニケーション能力、というか意思や知能はないのですから、命令や説得で反応を加速することはできません。どう考えても触媒は(例え一部分でも)反応物の分子と接触して、完全な化学結合ではなくても、なにがしかの相互作用を起こしていると考えないと辻褄が合いません。その意味で反応中の触媒は「変化している」のですが、触媒の定義では反応が終了した時点で元に戻っていれば「変化しない」認定されるのですね。

 さて、触媒は反応物の分子と接触しないと機能できない、ということは重要です。例えば化学工業で広く用いられている固体の触媒ですが、この固体触媒で機能できるのは他の分子と接触できる表面だけだ、ということになります。ものの値段は大抵その量(質量)で決まりますが、触媒の性能は表面積で決まる、ということです。なら質量に比べて表面積の大きな触媒が「コスパが良い」ことになりますね。

 例えば球体の触媒を考えてみましょう。半径をrとするとその体積は (4/3)πr3 、表面積は 4πr2 ですから体積当たりの表面積(比表面積と呼ばれます)は 3/r となります。つまり球のサイズが小さいほど比表面積が大きく、コスパが良いのです。

 固体触媒にはいろいろな種類がありますが、例えば金属コバルト(こちらの記事でも少し触れました)も有名な触媒の一種です。金属の微粒子、それもサイズが小さい粒子ほどコスパが良いとなれば、コバルトのなるべく小さい粒子を造ろうと考えるのは自然な流れですね。

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写真は富士シリシア化学さんのWEBサイトから。私もサンプルを提供してもらっています。

 ではコバルトの微粒子を触媒にすれば良いのか。でも、どうやって金属の微粒子をつくるのでしょうか。「コバルトのワイヤーをペンチで細かく切る」のか、「コバルト金属の塊をヤスリで削って削りくずを集める」のか。結構な手間がかかりそうですが、せいぜい0.1mm程度の細かさにしかならないのでは。そもそも金属は外部の力に対してしなやかに変形して破壊されにくい性質を持っていますからね。

 なら、金属の塊を分割するのではなく、金属酸化物の微粒子を還元して金属の微粒子にする、という方法はどうでしょうか。そして金属酸化物の微粒子は金属塩を酸化してつくります。金属塩は水などの溶媒に溶かすことができますから、その段階では単原子のイオンという究極の微粒子になっているのですね。

 つまりこういうことです。

金属塩を溶媒に溶かす(金属原子はイオンに)

→溶媒を蒸発させる(金属塩の粒子ができる)

→酸素の存在下で加熱(金属塩は金属酸化物に)

→水素など還元性のガスの存在下で加熱(金属酸化物は金属粒子に)

こんな手順で触媒金属の粒子を液体から造ることができるのです。

 さて「微」粒子ができるのは「溶媒を蒸発させる」段階ですが、そこで用いられるのがシリカゲル(こちらの記事でも触れました)のような物質です。固体のなかに無数の小さな隙間が空いている構造の物質で多孔質と呼ばれています。

 先ほどの触媒作成の手順で「金属塩を溶媒に溶かす」と「溶媒を蒸発させる」の間に「多孔質に金属塩溶液をしみ込ませる」というステップを入れましょう。しみ込んだ金属塩溶液が乾燥させられ、溶媒が少なくなると溶液は大体穴のサイズ程度の液滴に自然に分かれます。乾燥させてできる金属塩粒子はその液滴よりもっと小さくなるので非常に小さな微粒子、つまりコスパの良い金属触媒の元になるわけですね。

 このような役割の多孔質を触媒の「担体」とよびます。シリカゲルはその触媒担体としてよく用いられる物質の一つなのです。

 

江頭 靖幸

 

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