« 真剣勝負なのにずっと引き分け、それが何年も続くなんてあり得ますか?(江頭教授) | トップページ | ダーウィンが「進化」を発見したわけではないですよ(江頭教授) »

自己再生能力をもつのは遺伝子だけではありません(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

「自己再生能力の遺伝子をもったゴジラ細胞で永遠の命をもつ植物を創ったつもりだった」

これは1989年公開の(私が大好きな)映画「ゴジラVSビオランテ」の登場人物、白神博士のセリフです。当時は「バイオテクノロジー」が非常に注目を集めていましたから、ゴジラに登場する怪獣もバイオテクノロジーの産物という設定に。ゴジラ細胞を利用して生み出された怪獣、それがビオランテなんですね。私は「ゴジラって細胞でできてるんだ」となんか驚いた記憶があります。あれで普通の生物とおなじだと言われてもなあ。

 さて、この白神博士のセリフ「自己再生能力の遺伝子」こそ生命としてのゴジラの、いやゴジラじゃなくても生命というものの基本を言い表しているのでは。もっとも「自己再生能力」より「自己複製能力」と呼ぶほうがしっくりくるかな。つまり生命の本質は「自己複製能力」と「遺伝子」ですね。ではこの二つの要素「自己複製能力」と「遺伝子」のどちらがより生命の本質なのか、どちらか一つを選べ、と言われたらあなたはどちらを選ぶでしょうか。

 自己複製がなければ遺伝子も意味を成さない。そう考えると「自己複製能力」の方が生命の本質なのか。それでは「遺伝子」がなくて「自己複製能力」だけがあれば生命だ、ということなのか。いや、そもそも「自己複製能力」だけで「遺伝子」がない、そんな実例がなければこんな議論は机上の空論ですよね。

 でも実は有るんですよね。「遺伝子」がなくて「自己複製能力」だけがあるものが。前回紹介したBSEの病原体「異常プリオン」がそれです。

 異常プリオンの自己複製について、以下の文献をもとに説明しましょう。

堀内基広「総説 異常型プリオン蛋白質の生合成と伝達」膜(MEMBRANE),30(2),78-83(2005)

Photo_20260121115701

図は上記論文より引用

 

 まず、図の左側にある丸印が正常なプリオン(PrPC)を表しています。このタンパク質は折りたたまれて(foldされて)安定な形態を取っていますが、実際には折りたたみが解除された(unfoldされた)形(PrPU 図では縦長の楕円として描かれています) をとることもあり、両者の間には動的平衡が成り立っていると考えられています。

 それに対し、異常プリオン(PrPSc)は図中では四角い板のように表記されています。この異常プリオンの凝集体(図では四角い異常プリオンがらせん状に組み合わされて筒の様になっています)に、正常なプリオンや折りたたみが解除されたプリオンと接触するとどうなるか。異常プリオンの集合体にはまり込んで形が変わり、新たな異常プリオンとなって凝集体の一部となってしまうのです。つまり、異常プリオンの凝集体は正常なプリオンを異常プリオンに変化させる型(テンプレート)の役割を果たすのです。

 図の右側では異常プリオンの凝集体が二つに分裂している様子が描かれています。これは細菌などの分裂とはことなり、単に大きくなりすぎて自然に崩れるだけの話ですが、それでも「異常プリオンの凝集体の自己複製」とみなすことができますよね。

 凝集体が壊れてできた新しい異常プリオンの凝集体、これはタンパク質分解酵素などに耐性があるといいます。通常は牛の脳内に残り続けることになりますが、その牛が屠殺され、肉骨粉になり、そして子牛がそれを食べたら……。脳に凝集体が侵入すれば新たな自己複製がスタート。BSEを患った牛が新たに生じる、つまりBSEが伝染することになるのです。

 BSEの病原体である異常プリオン(の集合体)は正常プリオンを「型にはめて」つぎつぎと自己複製できる能力を示しました。でも正常でも異常でもプリオンはただのタンパク質。遺伝物質は関係しないのです。

「ビオランテが……進化している」

ふたたび「ゴジラVSビオランテ」から白神博士のセリフです。いままでの話を踏まえてこのセリフを聞くと次の疑問が湧いてきます。「異常プリオン」は「進化」するのでしょうか。この点については次回の記事で考察しましょう。

 

江頭 靖幸

 

« 真剣勝負なのにずっと引き分け、それが何年も続くなんてあり得ますか?(江頭教授) | トップページ | ダーウィンが「進化」を発見したわけではないですよ(江頭教授) »

解説」カテゴリの記事