ダーウィンが「進化」を発見したわけではないですよ(江頭教授)
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…… おや!?
ピカチュウの ようすが……!
「進化」という言葉は本来は生物学の用語で、ある「種」に属する生物の集団の形質が世代を経るに従って変化し、やがて新たな「種」として確立される、というプロセスのことです。
そういう意味ではこのピカチュウの進化や、前回の記事で触れたビオランテの進化、というか「変身」は正確には進化とは言えません。とはいえ、進化という言葉はより、一般的・抽象的に、なにかが変化して複雑になったり高度化したりするという意味にも使われたりもします。深化と書いたりね。ですから、まあ目くじらを立てるようなことではないでしょう。
さて、生物学的な意味での進化について。世間的に一番有名なのはダーウィン、正確にはチャールズ・ロバート・ダーウィン(Charles Robert Darwin 1809-1882)とその著書「種の起源」の名前でしょう。ダーウィンの名前があまりにも有名なので、中にはダーウィンが「進化」を発見した、と思っているひとも居そうです。でも、進化という現象、つまり種が変化していく、という事実は「種の起源」以前から知られていました。ダーウィンが偉いのは「進化」を発見したからではなく「進化」が起こる仕組みについて皆が納得できるような説明を提案したからなのです。(いや、まあダーウィンさんには他にも褒められるべき偉い点がたくさんあったとは思いますが……。)
ダーウィンによると進化は「変異」「遺伝」「自然選択」の三つで説明できます。
生物が世代を重ねることに「変異」が生じ、その形質は「遺伝」によって引き継がれる。形質によって周囲の環境による影響の受け方が違うので、有利な(生き残りやすい)形質をもった個体が種の中で多数を占める様になり、やがてその集団の中で一般化する。それが積み重なっていつかは元の種とは別の種に「進化」するのだ。
ということですね。
これのどこが偉いのか。今の私達にはピンとこないのですが19世紀という時代背景を考えるとその意義が分かってきます。この進化の説明には生物自身の意志とか超自然的な設計者(つまり「神」とか「宇宙意志」とか「任天堂」とか「東宝」とかですね)の存在を必要としないのです。この考え方なら、単純な物理化学的なプロセスだけで「進化」という自然の驚異を説明できそうだ。そして後年、本当に説明できることが示されたのです。
逆に考えてダーウィンの示した「変異」「遺伝」「自然選択」の三つの要件が満たされれば「進化」が起こるのでしょうか。正に然り。前回の引き、「異常プリオンは進化するのか」をここで回収しましょう。プリオンの進化について、以下のScience誌の2010年の論文から紹介します。
Li, J., Browning, S., Mahal, S. P., Oelschlegel, A. M., & Weissmann, C. (2010). Darwinian evolution of prions in cell culture. Science, 327(5967), 869–872. https://www.science.org/doi/10.1126/science.1183218
この研究では、マウス由来の細胞株に異常プリオンを感染させ、細胞内での複製と株の競合を観察しています。培養をつづけると細胞分裂がおこるのですが、その際、すでに異常プリオンを持った細胞が分裂した細胞にも異常プリオンが引き継がれるのです。
さて、前回紹介したとおり、異常プリオンは正常なプリオンが異常プリオンに接触し、異常プリオンの型(テンプレート)に組み込まれることで変形した(=異常プリオンが増殖した)ものです。なので新しくできた異常プリオンは型となった異常プリオンと結合している。つまり、感染性を持つ異常プリオンは集合体として存在し、これが株の構造情報を保持します。
実はその集合体に複数のタイプがあることが知られているのです。前回示した図では異常プリオンがらせん状に組み合わさって筒のようになっていました。その直径やらせんのピッチでいろいろなバリエーションができることは分かり易いのではないでしょうか。他にも異常プリオンが層状に積み重なっているタイプの集合体もあるのです。
この集合体のタイプがダーウィンの進化論での「変異」に相当します。集合体が成長し大きくなりすぎて壊れて分裂するのが異常プリオンの自己複製ですが、その際に集合体のタイプが「遺伝」する、というのは簡単にイメージできるでしょう。
ではダーウィン進化の最後の要件「自然選択」はどうでしょうか。この実験ではswainsonineという薬物が用いられています。この薬剤を加えると異常プリオンの集合体の成長が妨げられるのですが、その妨げられ方には集合体のタイプによって違いがあるのです。
異常プリオンには複数のタイプ(「変異」)があり、そのタイプは引き継がれ(「遺伝」)、タイプ毎にswainsonineなどの環境への応答が異なる(「自然選択」)。そして実験によって、環境(swainsonineの有無等)によって培養された細胞の中の異常プリオン集合体の型が増減すること、つまり異常プリオンにも進化が起こることが示された、それがこの論文のポイントです。
「異常プリオンは進化するのか」という疑問については「Yes」という答えが出たのですが、さて皆さんはどう感じたでしょうか。正直、「なんか思っていたのと違う……。」と感じる人も多いかもしれませんね。
最後にswainsonineについて。異常プリオンの集合体の成長が妨げられる薬品なんてどうやって見つけたんだろう?と思った人はいませんか。いや、偶然見つかるはずはありません。これは異常プリオンの発生を妨げる、つまりプリオン病(牛のBSEや人間のCJD)を治療することを目的とした研究の成果の一つなのです。
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