映画「不都合な真実2」に追加のコメント(江頭教授)
| 固定リンク 投稿者: tut_staff
昨日の記事で紹介した映画「不都合な真実2」について、今回はもう少しコメントしたいと思います。実は昨日の記事、この「不都合な真実2」が公開された年(2017年です)に劇場公開された時に書いた記事を再録したものです。それから約10年(正確には8年半)の年月が過ぎたのですが、今回のコメントはこの映画を見直してみての感想、ということになります。なお、今回は Amazon Prime での配信版を日本語吹き替えで鑑賞しました。( Amazon Prime のメニューでの表記は「字幕版」とされていましたが、複数言語の吹き替えが選択できました。)
さて、約10年ぶりの再鑑賞で一番印象に残っているのは
プーチンも昔はパリに来られたんだ
ということ。この映画のクライマックスは2015年末のCOP21でのパリ協定の採択のシーンでした。各国首脳がパリに集まり、そのなかにプーチン大統領もいた、ということです。このCOP21のシーンは今見ると壮観です。ドイツの元首相(当時は首相ですね)のメルケル氏、カナダのトルドー元首相、それに日本の故安倍晋三元首相もちらりと映っています。さらには習近平中国国家主席。そしてロシアのプーチン大統領も参加していました。
今や一堂に会することは不可能な豪華な面々です。(ほとんどの首脳はすでに現役を離れていますが、いまもその職に留まっている人も。お国柄が現れている、とでも言いましょうか。)パリ協定に賛成するこれらの首脳達を、この映画では、まあ好意的に描いていますが、その中で明らかに批判的に描かれているのがインドのモディ首相でした。彼は以下の様に演説します
民主主義のインドは急速に成長せねばなりません。インドの全国民12億5千万人のために。そのうち3億人は未だに電力を使う事ができません。電力は生活に欠かせないものです。ですから一方の意見を押しつけることはあってはならないのです。他の国の経済を邪魔することは避けるべきです。これからもインドには従来のエネルギーが必要です。化石燃料です。それ以外を使う方が道徳的に間違っているのです。
映画の中でこの演説をきちんと示したことは、この映画のスタッフが公正な態度を守った証明であり評価に値することだと思います。とはいえ、この発言を聞いてなお、映画のラストで「TRUTH TO POWER」と歌い上げるというのはどういう神経をしているのでしょうか?えっと、人の話聞いてます?
私にはゴア氏がモディ首相を見くびっているように見えてしまいます。モディ首相はおそらく十分にTRUTH(気候変動問題)を知っているでしょうし、もし知らないとして、そしてゴア氏にTRUTH(気候変動問題)を告げられたとしても、彼は同じことを演説したでしょう。彼には12億5千万人の、そして電気を使えない3億人の人々の生活を向上させる責任があるのです。
COP21で、温室効果ガス排出を抑制するための条約(パリ協定ですね)が締結できるかどうか。ゴア氏はインドを説得するために活動を開始します。インド側に「新しい太陽電池の技術を無償提供する」という話を持ちかけ、それによってインドがパリ協定にOKを出す、そのような流れで話は進みますが、はてゴア氏の努力はインドの決断にどの程度寄与しているのでしょうか。
まず、インドも別に二酸化炭素を排出したい訳ではない。必要なのは安価なエネルギーであり、それを供給できる技術が今は化石燃料を用いたものだけなのです。ですから、ゴア氏のエネルギー技術の提供という提案には説得力があり、評価に値すると思います。
では、ゴア氏は技術を取引材料にしたのは、このことが分かっているからなのでしょうか。それともたまたま手持ちのカードがこれだけだったのでしょうか。この映画のトーンからは後者のように見えますが、もし前者だとしたら……。ゴア氏とこの映画のスタッフが見くびっているのは本当はモディ首相ではなくて、この映画を見る人たちだ、ということになりませんかね。
PS: ゴア氏が交渉材料にする太陽電池の技術はソーラーシティ社から提供されるものですが、ソーラーシティ社は今はテスラに買収されているとか。そもそもソーラーシティ社はイーロンマスク氏が設立に関わった企業で、ゴア氏とマスク氏との良好な関係がこの取引の前提だったのです。当時のマスク氏と民主党の関係は非常に良好だったのですね。今(2026)の時点で見返すとなんとも趣深いと言いましょうか。
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