書評

書評「毒ガス帯」(江頭教授)

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 「コナン」というと昔は筋肉ムキムキの蛮族か異様に身体能力の高い少年のことだったのですが、最近は「見た目は子供、頭脳は大人」な探偵と言うことになっているのでしょうか。今回はその名前の元になったという作家、コナン・ドイルの小説「毒ガス帯」について紹介したいと思います。

 この作品のテーマはズバリ「人類滅亡」です。

 ある日天文観測データの異常から地球全体が今までと違う状態にある宇宙の領域に入り込もうとしていることに気がついた科学者。その状態変化は人間、いや全ての動物に対して致命的な影響を与えることが予想された。科学者はかつての冒険旅行の仲間達を呼び集め、変化の影響を緩和する酸素ガスによって十数時間の間、延命を計る。彼らの元に人類の最後の情報が次々ととどけられ、やがてその情報も途絶えた後、最後の酸素ガスボンベがそこをつくのだが...。

 というストーリー。この「冒険旅行」というのは同じくコナン・ドイルによる「失われた世界(ロストワールド)」で描かれた恐竜の生き残った秘境への冒険譚のこと。つまり、この「毒ガス帯」は「失われた世界」の続編なのです。

 なぜわざわざこの小説を紹介しようかと思ったのかですが、これは以前の記事(「2050年人類滅亡!?」釣りタイトルもほどほどに、という話)でも紹介したように「人類滅亡」という事象について少し真面目に考えて見たいと思ったからです。

 

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書評 マルサス 「人口論」 (光文社古典新訳文庫)(江頭教授)

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 「人口論」は18世紀の英国の経済学者、トマス・ロバート・マルサスによる古典的な書物です。原著は1798年に英語で書かれた書物ですが、日本語にも翻訳されており、吉田秀夫氏による1948年の翻訳版は青空文庫で無料で読むことができます(全部ではありませんが)。今回紹介するのは2011年に光文社から斉藤 悦則氏による翻訳で 「光文社古典新訳文庫」の一つとして出版されたもので、私はその電子書籍版を読みました。「新訳文庫」とタイトルにある通り、より現代的な訳文で読みやすくなっています。

 「人口論」の第一章で著者のマルサスは以下の二つを前提として議論を進めるとしています。

第一に、食糧は人間の生存にとって不可欠である。

第二に、男女間の性欲は必然であり、ほぼ現状のまま将来も存続する。

(「性欲」って...。1948年版の翻訳では「情欲」となっていてなかなかの品格なのですが、まあ、新訳の方が分かりやすいですね。)

 さて、この前提からマルサスは

人口は、何の抑制もなければ、等比級数的に増加する。

と結論します。それに対して

生活物資は等差級数的にしか増加しない。

といいます。前後の文脈から「生活物資」は食糧を意味しているとみなして良いでしょう。

 この二つの条件から人間の社会で飢餓が無くなることはない、全ての人が豊かに暮らせる理想的な社会が到来する(「人間と社会の完成」と表現されています)ことは不可能だ、と述べているのです。

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書評「マイケル・サンデルの白熱教室2018」(江頭教授)

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 書評とは少し違うかも知れませんが、今回は「マイケル・サンデルの白熱教室2018」について書いてみたいと思います。私が見たのは今年(2019年)のお正月にやっていた再放送で、本放送は2018年の6月から行われていたようです。

 さて、「マイケル・サンデルの白熱教室」、2018とついている様に以前から続いている番組の最新版です。最初の「白熱教室」の放送は2010年だったでしょうか。講堂一杯の学生と討論形式で進めるという授業形式はなかなか高度なもので、私の周りでも話題になった記憶があります。

「なるほど...。君の名前は。」

というサンデル教授のものまねが流行っていたような。

 さて、2010年の「白熱教室」は大学(ハーバード)の講義でしたから対象者は学生。2018では「世界の若者たち」という括りで背景の異なるいろいろな人たちが参加しています。もちろん、流ちょうに英語を操れることは必須ですし、その上で場所が非英語圏のギリシャの遺跡と設定されていることから非常に偏った人選となることは致し方ないでしょう。世界の、という割りに日本人は1人もいませんし、インドの農民や中国共産党の若手幹部の姿も見えません。それにプラスして「若者」という方にも疑問が。30代後半って若者なんでしょうか?

 こうなると、今回の議論に参加している「世界の若者たち」はかなり偏った構成になっていて、欧米の高度な教育を受けて非常に成功した、しかも高齢化の進んだコミュニティのメンバーだ、ということがいやが上にも意識されてしまいます。

 要するに恵まれすぎるほどに恵まれている人たち。ハーバード大学の講義であった最初の「白熱教室」ならこのような偏りも織り込み済みです。「正義論」は社会のリーダー層にむけた教養として教えられている。2018年版も同じ前提を共有しているのですが、この番組を作成した人たちはその点について意識的だったのでしょうか。

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書評 ユヴァル・ノア・ハラリ「サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福」河出書房新社(片桐教授)

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 正月のNHKのBSでこのベストセラーの解説番組をやっていました。面白そうだったので、正月の休みに少しどっしりとした本を読もうかなと思い正月2日の初詣の帰りに購入しました。しかし、正月の休み明けの7日現在、まだ上巻を読み終え、やっと下巻に入ったところです。普通この厚さの本は上下巻でも2日あれば読破できるのに、いろいろ引っかかって全然前へ進めません。読みはじめて少し後悔しています。まだこの後に続編の「ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来」が控えていると考えると,気が遠くなります。

 視点は確かにおもしろい本です。というよりも視点でごりごりと押してきています。歴史書のような顔をした哲学書です。

 上巻はサルとヒトとの違いを「認知革命」というキーワードで分析しています。しかし、この議論の論拠は必ずしも完全ではありません。特に今から7万年前のトバ・カタストロフィについての記述とその意義を欠いています。

 トバ・カタストロフィとは、インドネシアのトバ火山の噴火による大きな地球環境の変動により、サピエンスは数千個体にまで減ってしまった(ボトルネック)という学説です。この人類という種のボトルネックにより人類の多様性は失われてしまったと言われています。実際、サピエンス種の体格などのばらつきは犬などに比べて比較的小さいものです。トバ・カタストロフィについては異論も多く、まだ確立したものではありません。しかし、この説を採用すればこの本「サピエンス全史」の主張するいろいろな事象をよりスマートに説明できるのに、著者はそれをあえて採用していません、そこにある種の意図を感じます。

 他の動物はそのような地域的な拡散を行なわなかったのに、サピエンスはなぜユーラシア大陸から全世界に広がらなくてはならなかったのか?。それについての記述には、このような大きな地球の気候変動についての記述を必要とするのではないか?。それを無理矢理に人類の自発的な行動である、としたいように読めます。このようなことを考えながら読むと、ページが前に進みません。

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書評 高橋洋一著「未来年表 人口減少危機論のウソ」(江頭教授)

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高橋 洋一

 

「未来年表 人口減少危機論のウソ(扶桑社新書)」

 

扶桑社(2018)

 

 この本のタイトル、明示はされませんが

河合 雅司著「未来の年表 人口減少日本でこれから起きること (講談社現代新書)」講談社(2017)

を意識してつけられているのだと思います。(こちらの本については以前このブログでも紹介しました。)ただ、注目してほしいのは「人口減少危機論のウソ」というサブタイトルであって「人口減少論のウソ」ではない、という点です。人口減少が起こることは当然のこととしてみとめたうえで、でもそれは危機ではない、というのが本書の主張です。「だからどうした?」という帯の煽り文句からわかるように、人口減少による変化は変化として受け入れることは可能であり、むしろ人口減少に危機感を感じて馬鹿なことをしないことが大切だ、というのです。

 

 「馬鹿なこと」とは何か。国としては移民の受け入れであり、個人としては国の年金制度を利用しないことだ、といいます。

 

 

 

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書評 堺屋太一著「平成三十年」その3 物価の安定は何をもたらしたか(江頭教授)

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 前回、前々回と堺屋太一氏の著作「平成三十年」について書いています。平成9年から10年にかけて連載されたこの小説で予測された未来とくらべて現実の日本はどう違っているのでしょうか。

 小説の冒頭、主人公の月給が200万円という記述があります。高給取りだなあ、と思いますが実は物価が上がっているのでそれほどでもない。主人公はどちらかというと経済的には苦しいと感じているのです。

 さて、現実の日本はどうだったのでしょうか。1989年の平成元年からの三十年間、ごく初期を除いてほとんど物価は上昇しませんでした。物価が上昇しないこと、これは社会に大きな影響を与えたと考えます。

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書評 堺屋太一著「平成三十年」その2 資源危機はなぜ起こらなかったのか(江頭教授)

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 堺屋太一氏の著作「平成三十年」については昨日の記事で評させて頂きました。そこでも書いたのですが平成9年から10年にかけて連載されたこの小説で予測された未来とくらべて現実の日本は安定した状態にある様に見えます。その原因の一つはそれなりの意識改革、制度改革が進んでいることですが、今ひとつの原因は本書で予測されたような「資源危機」が起こらなかったことにあると思います。今回は「資源危機」がなぜ起こらなかったのかを考えてみたいと思います。

 

 もちろん「資源危機」は架空の歴史的な事象であり二〇〇〇年代末に起こった原油や金属資源の不足とそれによる価格の高騰のことです。

 

 おそらく堺屋太一氏は一九七〇年代に起こった「石油危機」をモデルとして「資源危機」を描写したのだと思います。中国など東アジアを中心とした世界規模での高度経済成長がつづけば自ずと資源の限界に衝突するはず。資源の不足が危機的な状況を作り出し、資源を持たざる国の代表である日本は閉塞状況に追い込まれるだろう。これはまさに「石油危機」の際に感じられた雰囲気なのだと思います。

 

 確かに実際の歴史でも資源不足の傾向が見られ、2008年には1バレル100ドルを超える、という事態になりました。しかし2008年に実際の起こったのは金融危機であり、その影響で経済は足踏み状態になり、その結果で原油価格の暴落したのでした。

 

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書評 堺屋太一著「平成三十年」(江頭教授)

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 平成三十年の終わりにこの「平成三十年」を読む、というのも面白いと思います。本書は平成九年から十年にかけて朝日新聞に堺屋太一氏が連載した小説をベースとして平成十六年に刊行されました。本書の面白さは執筆の時点から二〇年後、あるいは十五年後を想定して書かれた未来予想、しかも「このままでは未来はこんなことになってしまう」という暗い未来の描写です。本当に平成三十年になった現在から見て、果たしてどの程度「暗い未来」が実現してしまったのでしょうか。

 さて、本書で予測された平成三十年の世界はどのようなものなのでしょうか。本書下巻に北岡伸一氏がよせた解説から少し引用してみましょう。(この解説も平成十六年に書かれていることに注意してください。)

 平成三十年の日本は、八方ふさがりの状況にある。

 円安は進んで一ドル二五〇円を切り、さらに三〇〇円に近づきつつある。貿易とサービスの収支は一〇〇〇億ドルの赤字、過去の遺産である資本収支で五〇〇億ドルの黒字だが、国際収支は五〇〇億ドルの赤字、それも拡大しつつある。

 予算は大幅に膨張して総額三〇七兆円、現在の四倍近い。そのうち、七七兆は不足していて、公債に依存している。所得税は地方税を含めて五十%、消費税は十二%で、さらに二〇%へと引き上げられそうである。

いかがでしょうか。極端な数字が並んでいるように思えまますが本書の設定ではインフレが進行、物価が3倍以上に上昇していることになっています。これを考慮すると円ドルレートは現実の方がまだまだ円高なようです。消費税はまだ十%になるかどうか、という状態ですから現実の方がこの小説を追いかけている途中と言ったところでしょうか。

 現状、貿易の黒字はサービスの赤字よりも大きく、資本収支を加えた経常収支では平成二十九年で約二十二兆円の黒字となっていますから、本書の予測はあまり当たっているとは言えません。

 予算規模は物価の上昇を考慮すれば当たっていると言えるでしょうか。ただし、実際の公債依存度はより高くなっていますから、現実の予算はより借金に依存している、税金を上げるのが間に合っていない、というわけですね。消費税の税率では現実が追いついていないこともその原因でしょうか。

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書評 井上純一「キミのお金はどこに消えるのか」角川書店(2018)(片桐教授)

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 本屋さんでこの本を見かけたので購入しました。

 私はこの作者の別のマンガ「中国嫁日記」を昔から読んでいます。夫婦という密接な関係の中で、日中の異文化の衝突が書かれている興味深いマンガです。その同じ作者の経済に関する解説マンガです。

 学習・解説マンガは小中学生の読み物と思っていると、大間違いです。この本は大人でも、いや常識に固まった大人だからこそ,読んだ時に理解や納得が難しく感じられる本です。いろいろな近代・現代経済学の学説を交えて、現在日本の経済状況について、日本の国債(借金)のはなしから、消費税のあり方まで議論しています。

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 「経済」はつくづく怪物です。人間が創り出したものなのに、人間には制御できていないモンスターです。そして、そのモンスターをどのようになつけるのかについて、まだ人類は知恵がたりません。

 我々は中学や高校の歴史や日本史で江戸時代の両極的な経済政策を学びました。ひとつは徳川吉宗と徳川宗春の葛藤です。徳川吉宗は紀州藩の藩主時代に緊縮と節約で藩の財政を立て直し,その後同じ手法で幕府の財政立て直しを行ないました。そして、庶民にも節約と贅沢の禁止を押し付けました。一方の徳川宗春はまったく逆の産業や商業や娯楽の振興により尾張藩をもり立てました。本人を含め、領民にも贅沢を許し、そのため吉宗と反目しました。しかし、どちらのやり方も経済政策としてはそれなりに成功しています。どちらが正しく、どちらが間違っているというものではありません。

 もうひとつは田沼意次の重商政策と松平定信の寛政の改革の葛藤です。これもまた、経済をなつけるために、両極端の手法でそれぞれ経済を立て直しました。

 ここで、注意しなければならないのは、多くの書籍では吉宗や定信の節約・倹約は「正しく」、宗春や意次はあたかも贅沢をする悪者のように扱われていることです。特に田沼意次の政策が破綻したのは天災とテロによるものです。そして、現在は悪いこととされる賄賂もその当時は一般的なことでした。しかし、後世の中学校や高等学校の先生方は、田沼意次が賄賂を受け取ったから悪い奴である。彼は小姓から成り上がったため卑しい考え方をしていた(一方、松平定信は吉宗の孫であり、正当な為政者である)、と教えることすらあります。そのようなバイアス=偏見は危険です。むしろ有能でのし上がってきた意次の方が、世襲に頼った定信よりも優れていると考える方が健全ではないでしょうか。これについては辻善之助「田沼時代」岩波文庫(1980)をお読みください。そして、そのような歪んだ考え方は、昭和の田中角栄のバッシングにおいても見られました。

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気候変動を描いた映画「デイ・アフター・トゥモロー 」(江頭教授)

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 先日核戦争を描いた映画「ザ・デイ・アフター」の紹介を書いていたとき、そう言えばこんな映画もあったな、と思い出したのがこの作品「デイ・アフター・トゥモロー 」です。こちらは核戦争ではなく気候変動を描いた2004年のアメリカ映画です。

 この映画が公開された2004年ごろ、気候変動と言えば温暖化するのが当然と思われていたと思います。しかし、気候変動の影響は単に温度が高くなるだけではありません。台風の進路が変わって関東が大きな台風に直撃されたり、記録的な大雨が降るなど、などいろいろな影響がありうることがこの2018年の夏にも経験されました。この映画は気候変動によって気温が下がることもありうる、という想定によって印象的なシーンに満ちあふれた作品となっています。

 気温の上昇によって北極圏の陸上の氷がとけ、真水が北極近くの海に大量に流れ込みます。その影響で地球規模での海水の流れである熱塩循環により深海に沈み込むはずだった北大西洋の海水が真水で薄められて密度がさがり熱塩循環が止まってしまう。赤道付近から両極への熱の輸送に大きな役割を果たしていた熱塩循環がとまったことによって地球の環境は新たな氷河期へと急激に移行する、というのです。

 ところが、この「急激」というのがどのぐらい急激かが問題でして、ほぼ一日で地球が氷河期になってしまう、という勢いです。ほとんど冗談のような、というか完全に冗談にしかみえません。氷河期の冷気から走って逃げるという描写まであってちょっとこれはどうなんだと思ってしまいました。

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