書評

映画「妖星ゴラス」(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 このブログをお読みの皆さんは「午前10時の映画祭」という映画館で行われている催しのことを聞いたことがあるでしょうか。もし皆さんが高校生なら「午前10時」に映画館に行く、というのは土日以外は無理ですね。でも、リタイアした人にとっては都合の良い時間帯。おそらく映画館がそれを当て込んで「リタイアした人たちが若かりし頃に観たであろう映画」の再上映を行ってくれているのです。

 私自身はまだリタイアできていないのですが、年齢的にはリタイアしてもおかしくない年齢になりました。そんなわけで「午前10時の映画祭」の中にも気になる映画がチラホラ。その一つが今回2025年の1月3日からリバイバル公開されることに。

 「妖星ゴラス」それが映画のタイトルです。

というわけで、以前に書いた「妖星ゴラス」の記事を以下に再録することとしました。以下の記事を読んで気になった方は是非映画館へ!

(以降は2020年7月27日の記事の再録となります)

 以前このブログにて紹介した映画「地球最後の日」では地球が太陽系に侵入してきた遊星と衝突して破壊される、というまさに天文学的な確率の事象を想定したSF映画、いや、空想科学映画でした。地球を脱出するロケットを建造した人々は若者たちをそのロケットに乗せて地球が破壊された後に、ちょうど地球と同じ軌道に残ることが予測されている遊星の伴星へと移住させる、というストーリー。その時、この映画のポイントは

この映画で中心的に描かれているのは宇宙船の建造には数百人のスタッフが必要だが、その宇宙船の乗れるのは数十名のみ、という状況です。

と書きました。

 その「地球最後の日」から11年後の1962年に作成された本作「妖星ゴラス」も、同様の状況を扱った日本映画です。

 「ゴジラ」をはじめとする特撮映画で有名な円谷英二氏が制作かかわった作品だけあって、特撮映像の大盤振る舞い。「地球最後の日」に比べると、これでもかとばかりに驚きの映像が次々と出てきます。もちろん、現在の目から見ると、というかおそらくは当時から見ても、見るからにミニチュアワークの映像であり、リアリティがあるとはとても言えません。しかし、少なくとも私にとっては、その映像のタッチに懐かしさを感じるとともに、それだけのミニチュアが作られたという圧倒的な作業量に対する感銘が合わさって、ワクワク、ドキドキの映像の連続でした。

 さて、天文学的な事象によって地球が破壊される、という危機に際して「地球最後の日」で描かれた上記のジレンマに対して「妖星ゴラス」ではあっと驚く解決策が示されています。(「続きをよむ」以降にはネタバレを含みます。)

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映画「子鹿物語」(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

「本学のメディア学部で教鞭を執ってもらっていた金子先生はアニメーションにCGを導入するという当時では最先端の仕事をしておられた方で、フジテレビの『子鹿物語』などの作成にかかわっておられたんですよ。」

「理事長、アニメの『子鹿物語』はフジテレビじゃなくてNHKですよ。」

なんて会話があって、ふと「子鹿物語」のことを思い出しました。件のアニメ版は今では視聴が難しいそうなので、1946年の映画(私は何となく「グレゴリー・ペック版」と記憶していました)を久々に見てみた、という次第です。今回はアマゾンの Prime Video での鑑賞。本当に40~50年振りです。

 さて、「子鹿物語」というぐらいですから、もちろん子鹿が出てきます。そして写真を見て分かる様に少年(ジョディという名前です)がその子鹿をペットにする話なんですね。ところが、肝心の子鹿が登場するのは物語の後半に入ってから。オープニングでも述べられていますが、この物語はアメリカの開拓民の生活と、その厳しい環境の中で成長してゆくジョディの姿を描いた作品なのです。

 物語のスタートはジョディの父親の回想から。開拓地に入植した経緯が語られるのですが「南北戦争が終わって」からの入植という説明から、それ以前にいろいろな事があったのだろうと想像させます。そして開拓地の町で出会った女性と結婚し、今は11歳になる息子、一人っ子のジョディを育てているのです。

 この「一人っ子」という設定、いまでこそ何の違和感も無く受け入れられるのですが、おそらく当時の感覚からすれば子供の人数が少なすぎると感じられたでしょう。物語の開始すぐに、実はこの夫婦がもっと多くの子供を授かりながらも、どの子供も赤ん坊のうちに亡くなったのだ、という背景が明らかになります。

 そんな事情もあるのでしょう。いつも不機嫌にしている母親に対して、ジョディは「ペットを飼いたい」という希望をなかなか伝えられずにいます。そんな時、蛇に噛まれた父親が毒を吸い出すために射って殺した鹿が、たまたま子鹿をつれていたことから、「父の命の恩人」である鹿の子供を飼うことをみとめてもらうことができたのです。

(後半には「子鹿物語」の結末についてのネタバレがあります。)

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書評 マルサス 「人口論」 (光文社古典新訳文庫)(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 「人口論」は18世紀の英国の経済学者、トマス・ロバート・マルサスによる古典的な書物です。原著は1798年に英語で書かれた書物ですが、日本語にも翻訳されており、吉田秀夫氏による1948年の翻訳版は青空文庫で無料で読むことができます。今回紹介するのは2011年に光文社から斉藤 悦則氏による翻訳で 「光文社古典新訳文庫」の一つとして出版されたもので、私はその電子書籍版を読みました。「新訳文庫」とタイトルにある通り、より現代的な訳文で読みやすくなっています。

 「人口論」の第一章で著者のマルサスは以下の二つを前提として議論を進めるとしています。

第一に、食糧は人間の生存にとって不可欠である。

第二に、男女間の性欲は必然であり、ほぼ現状のまま将来も存続する。

(「性欲」って...。1948年版の翻訳では「情欲」となっていてなかなかの品格なのですが、まあ、新訳の方が分かりやすいですね。)

 さて、この前提からマルサスは

人口は、何の抑制もなければ、等比級数的に増加する。

と結論します。それに対して

生活物資は等差級数的にしか増加しない。

といいます。前後の文脈から「生活物資」は食糧を意味しているとみなして良いでしょう。

 この二つの条件から人間の社会で飢餓が無くなることはない、全ての人が豊かに暮らせる理想的な社会が到来する(「人間と社会の完成」と表現されています)ことは不可能だ、と述べているのです。

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核戦争を描いた映画「ザ・デイ・アフター」(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

  持続可能な世界を目指すサステイナブル工学の背景にはこの文明がサステイナブルではない、つまり人類が滅亡するかも知れない、という概念があり、その一番リアルな恐怖は全面核戦争ではないか。ということで核戦争を描いた映画を紹介しています。

 今回紹介する「ザ・デイ・アフター」は1983年、アメリカの映画ですが、実はテレビ放送用の作品です。核戦争が実際に起こり核爆弾が投下されるとどうなるのか、を正面から描いた作品で、以前紹介した核戦争を描いた作品が踏み込まなかった「その日の後」に踏み込み、核戦争の悲惨さを力強く印象付けよう、という製作者の意思が感じられます。

 以前紹介した「博士の異常な愛情」では核戦争が起こることは世界の終末を意味している、したがって核戦争が脅威であることは自明である、という前提で映画が作られているように思われます。「世界大戦争」では東京を破壊して見せることで「核戦争がなぜいけないのか」を可視化していました。「渚にて」での核戦争の描写はやや変化球ですが個々人の問題としての死、家族や近しい人々の死、そして人類の死滅という、自身が生きた意味が完全に失われてしまう状況を描写し、その悲惨さこそが核の脅威の本質であると訴えています。

 それに対して本作では核戦争を生き延びた人々がみることになる現実を描写して核の脅威を示そうとしている点で大きく異なっているのです。

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映画「地球爆破作戦」(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 先日紹介した映画「博士の異常な愛情」は、米ソ両陣営がそれぞれ「国内のどこかに核攻撃をうければ自動的に報復攻撃を行う装置」を作動させたことで一発の核爆弾が全面核戦争の引き金となってしまう、というストーリーでした。

 今回紹介する「地球爆破作戦」の世界でも米ソが同様な装置を作るのですが、この装置に高度な人工知能が搭載されている、という設定がユニークな点です。この映画、実は核の脅威よりも人工知能の反乱の恐怖を描いた作品なのです。

 アメリカの自動報復装置に搭載された人工知能「コロッサス」は起動されるとすぐにもう一つの人工知能が存在するという結論に達します。その推論は当たっており、もう一つの人工知能はソ連の自動報復装置「ガーディアン」だったのです。コロッサスはガーディアンとの接続回線を開くことを大統領とコロッサスの設計者、フォービン博士に要求。ガーディアンも同じ要求をソ連の書記長に要求してきます。接続が確立された両人工知能は融合し一つの存在となり、全面核戦争を回避するために自らが人類を支配する、と宣言するのでした。

 自動報復装置の機能を利用して自在に核ミサイルを操ることができるコロッサスーガーディアンの支配を覆すことができるのか。フォービン博士はコロッサスに協力する振りをしながらレジスタンス活動を開始するのですが...。

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映画「地球は壊滅する」(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 いや、凄いタイトルですよね。これは1965年のアメリカ映画。つまり今から半世紀以上前の映画で、当時の感覚では「有り」のタイトルだったのではないでしょうか。ちなみに原題は「Crack in the World」で、こちらのタイトルの方が内容をちゃんと反映していると言えるでしょう。

 地球の地下深くからマグマを取り出し、その熱を利用することで実質的に無限のエネルギーを手に入れる。そんな計画が(おそらく)英国によってアフリカ大陸で実施されている。マグマを取り出すための長大な掘削孔が掘られているが、マグマに到達する直前に強固な岩盤の存在によって作業は滞っていた。その解決策として核ミサイルの利用が提案されたのだが……

というのがこの映画のスタート。核爆発によって岩盤を打ち破ることは出来るが、果たして影響はそれに留まるのか。すでに地下核実験の影響を受け続けてきた地殻の大崩壊への最後の一撃になるのではないか、と主張する若手科学者がこの物語の主人公です。

 もちろん「地球は壊滅する」というタイトルの通り、核ミサイルの使用は最悪の結果をもたらします。地殻に大きな亀裂(まさに原題の「Crack in the World」です)が生じ、アフリカ大陸からインド洋にかけて地球を一周する勢いで進んでゆくのです。このままでは地球は真っ二つになってしまう。どうやってこの亀裂を止めれば良いのだろうか。

 とまあ、なんとも規模の大きなお話になってゆくのですが、私が少し驚いたのはこの映画が「核の脅威」を扱った映画(かなりの変化球ですが)だったということです。

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書評 モリー・マルーフ.「脳と身体を最適化せよ!――「明晰な頭脳」「疲れない肉体」「不老長寿」を実現する科学的健康法」(江頭教授)

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 以前、このブログで「健康になる技術 大全」という書物を推薦しました(その1その2その3)。少々怪しげなタイトルですが、その内容はいたってまとも。著者は「万人に意義のあるエビデンスに基づいた医学的な情報」にこだわっていて、そもそも科学的なエビデンスとは何かを掘り下げるところから始める念の入れようでした。(推薦記事のその1をご覧ください。)

 さて、今回紹介する

 モリー・マルーフ著 矢島 麻里子 訳

 脳と身体を最適化せよ!――「明晰な頭脳」「疲れない肉体」「不老長寿」を実現する科学的健康法

 ダイヤモンド社 (2024/2/14)

という本ですが、これはある意味「健康になる技術 大全」の対局にある様な書物です。

 この本では医学的な研究の結果の利用というよりは「バイオハック」という技法が中心的に語られています。

「バイオハック」について、この本の著者は

バイオハックとは、心・身体・精神すべてにおいて最高に健康な自分になるために、単一事例実験によって最先端の科学的知見を応用するプロセスである。

と定義しています。美辞麗句を引っぺがして要約すると「いろんな健康法を試してみて巧くいったものを生活に取り入れよう」でしょう。

 「単一事例実験」と格好を付けていますが要するに個人の経験に過ぎません。客観的な、というか科学的な知見を得るために「単一事例実験」はほとんど役には立たない、というのは言い過ぎですが、全く決め手に欠ける、とは言えるでしょう。つまりこのバイオハックは医学的な意味においては最低レベルの証拠に基づいた知見の集まりにすぎません。そして本書の著者もそのことには気が付いているのです。

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戦争に負けた国の戦争映画「地球防衛軍」(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 今回紹介する映画「地球防衛軍」は1957年に公開された東宝特撮映画。監督が本多猪四郎、特技監督は円谷英二という「ゴジラ」を作ったコンビの作品です。タイトルに「軍」と入っていることからも分かるようにこれはある種の戦争映画です。

 さて、ここで公開年が1957年であることを考えてみると、この映画は先の戦争(第二次世界大戦というか太平洋戦争)から12年後の作品ということになります。感覚としては東日本大震災(2011年)から12年後の2023年に震災や天変地異に関する映画を作る、ということを想像してみれば良いでしょう。(例えば「雀の戸締り」のような。)

 大きな社会的な事件があって、それに近いテーマの大衆向けの映画を作るとなれば、スタッフは意識的か無意識的かを問わずその事件を、この「地球防衛軍」の場合には先の戦争を、どのように解釈するのか、受け入れるのかについて、なにがしかの結論を示すことになると思います。

 タイトルの「地球防衛軍」には、まさの先の大戦の反省というか配慮というか、あるいは正当化というか都合の良い設定が表れています。

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「日本の文系大学院卒の就職率が学部卒より低いのはなぜ」なんだろう?(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 ニューズウィーク日本版については以前このブログで記事を書いたことがあります。その際は雑誌(とはいえ電子版)についてのお話しだったのですが、今回はニューズウィーク日本版のWEBサイトの記事について書きたいと思います。記事のタイトルは

日本の文系大学院卒の就職率が学部卒より低いのはなぜか?」というもの。

 日付は2023年11月1日(水)11時30分となっています。著者については…敢えてここでは書かないことにしましょう。

 私も大学関係者の一人なので、この様なタイトルがあると気になってしまいます。で、その内容について。まず、議論の元になるデータは文科省の「学校基本調査」(2022年度)です。そして大学学部卒業生の就職率と修士課程修了生の就職率との比較を行っています。

 そして学部卒業生の就職率とくらべて修士卒の就職率は微減するとのこと。さらに理工系は大学院に進んだ修士の方が就職率が上がるのに対して、文系、とくに人文科学、社会科学では下がってしまうことを示しています。

 ここまではデータです。で、その後に「何故か」の説明があるのですが、結局企業が求めるのは「(大学院が向上させる)学力や能力」を発揮する人材ではなくて「従順な労働力」なのだ、としています。

 うーん、それってあなたの感想ですよね。

とまあ、あきれたのですがそれでわざわざブログを書こうとは思いません。私が問題だと思ったのはその続きの部分です。

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書評 ジェニファー・D・シュバ著「米国防総省・人口統計コンサルタントの 人類超長期予測」(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 今回は人口問題に関する書籍を紹介しましょう

書評 ジェニファー・D・シュバ著「米国防総省・人口統計コンサルタントの 人類超長期予測」

サブタイトルには「80億人の地球は、人口減少の未来に向かうのか」とも書かれています。

 さて、本ブログでは以前にも人口に関する書籍をいろいろと扱ってきたのですが、先に「人口爆発が騒がれなくなったのは何故か?」という記事に示したように私はどうやら「人口爆発」は起きそうもない、という立場です。

 貧しい状態(多産多死の状態)の社会ではたくさんの子供を産むことが必要(でないと次の世代がいなくなってしまう)ですが、社会が豊かになるとその必要性はなくなる。タイムラグはあるものの人々は敏感に反応して出生率が減少し、やがて新たな状態(少ない子供が必ず育つ)へと移行してゆく。

基本的にはこのように考えています。

 さて、今回紹介する「人類超長期予測」にはいろいろなトピックスが紹介されているのですが、大きなポイントとして上述のプロセスが必ずしも予想通りに進行する訳ではない、という指摘が成されています。具体的にはサハラ以南のアフリカの諸国で、これらの国々では「子供が死なない程度の発展」はあったが「出生率が減少」するほどには豊かになっていないという状況にあることが指摘されています。結果、局所的な人口爆発(制御不能な人口増化)が起こっており、毎年増え続ける子供達が、そしてやがては毎年増え続ける就職年齢に達した若者達が社会にどんどん参入してくることになるのです。人手不足の日本からすれば夢の様な状況ではあるのですが、そんなに質の高い(要するに高給の)職を準備することができるのでしょうか。若者の失業率が高くなれば自ずから社会は不安定化し、それがまた出生率を高止まりさせる…。Photo_20230907183501

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