書評

スウェーデンより社会保障が充実し、アメリカよりイノベーションが盛んで、中国より市場規模の大きい国!?(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 この記事は慶應義塾大学大学院の小幡 績准教授の「ついに「日本が独り勝ちする時代」がやってきた」という東洋経済オンラインの記事への論評の続きです。

 最初にお断りしたように私は経済学については門外漢なので、上記の小幡氏の記事の内容について判断できるほどの知識はありません。でも賛成できる点も多々あって、中でも「これはその通りだ」と思ったのは以下の部分。

日本の有識者や世間の議論の悪いところは、世界でいちばんのものを持ってきて「それに日本が劣る」と騒ぎたて、「日本はダメだ、悪い国だ」と自虐して、批判したことで満足してしまうことだ。社会保障はスウェーデンと比較し、イノベーションはアメリカと比較し、市場規模は中国と比較する。そりゃあ、さすがに勝ちようがない。

これぞ我が意を得たりでして、常々私も気になっている点なのです。

 これも昔は違っていたと思います。世界で一番優れた製品、世界で一番優れた制度をよく観察し、それを参考に、というかそれをまねして自国に取り入れるというのが日本の国のやり方だった時代がありました。その時代なら世界でいちばんのものを持ってきて「それに日本が劣る」と騒ぎたてることにも意味がありました。そしてその後に続くのは「日本はダメだ、悪い国だ」ではなく「我々もそれに負けないようなものを創ろう」であったのです。

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サステイナブルな社会に「イノベーション」は有るのか(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 この記事は慶應義塾大学大学院の小幡 績准教授の「ついに「日本が独り勝ちする時代」がやってきた」という東洋経済オンラインの記事への論評の続きです。

 小幡氏は世の中の財やサービスを「必需品」と「ぜいたく品」に大別し、現在の先進諸国では本来は不要な「ぜいたく品」を必要だと思い込ませることによって経済的なバブルを維持している、と指摘しています。「ぜいたく品」は新しい刺激で欲望を作り出し続けるための「麻薬」の様なものであると。そして、

われわれは、必需品が作れなくなり、いらないぜいたく品が世の中に溢れ、人々は「麻薬」にお金を使っている。だから、新型コロナウイルスや戦争などなんらかの社会的なショックによって供給不足に陥り、必需品が目に見えて高騰してはじめて、ようやく「今まで必需品をつくることに手を抜いてきた社会」になっていたことに気づくのだ。

と、現下の状況を解釈してみせるのです。

 そして新たな「ぜいたく品」をつくるイノベーションよりも「必需品」を地道に改良する事を良しとする社会と経済の在り方を「膨張しない経済」と呼び

必需品の質が上がっていく。基礎的な消費の質が改善する。これが社会にとってもっとも必要であり、社会を豊かにし、社会を持続的に幸せにすることだ。格差は生まれにくい。質の差はあるが、その差に断絶はない。社会として一体性は維持されやすい。

とし、今回の世界的なインフレなどの経済変動がその「膨張しない経済」への入口となると述べています。

 小幡氏の予言とおりに社会が変化してゆくかのか、その可能性の大小はさておいて、この「膨張しない経済」というビジョンはとても興味深いものです。「サステイナブルな社会」とはこの「膨張しない経済」のことなのでしょうか。

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論評 小幡 績「ついに「日本が独り勝ちする時代」がやってきた」(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 私の専門は化学工学で経済については門外漢。経済学に興味はありますがきちんと勉強したわけではないので経済関係の記事に対して論評できる立場ではないのですが、今回は東洋経済オンラインのある記事について少しコメントしてみたいと思います。

 件の記事は2022年9月17日付けでタイトルは「ついに「日本が独り勝ちする時代」がやってきた」となかなか刺激的。その辺は意識してのタイトルらしくサブタイトルとして「なぜ円安が進んでいるのにそこまで言えるのか」とわざわざ強調しています。

 ちなみに著者の小幡 績氏は慶應義塾大学大学院准教授で以前から雑誌やこのようなサイトでお名前を拝見する先生です。文体は単刀直入でやや強い表現がめだちます。でも、TVだったかネット番組だったか、映像で話をする様子は穏やかで少し茶目っ気が多めの常識人という感じ。学問上の意見は意見としてエッジを立てた書き方をしているのでしょう。

 さて、記事の内容。まず前半では、先進諸国はインフレと不況が同時に起こるスタグフレーションに向かって突き進んでいるとしています。しかしインフレが穏やかな日本にはその心配はない。日本のマスコミの論調とは逆に今の日本は非常に恵まれた状態にあるといいます。

 そして最近の急激な円安傾向については、単に日本銀行による金融緩和の具体的な手法が間違っているだけであり、伝統的な手法に戻せばすぐに解決するはずだというのです。

 タイトルとサブタイトルはこの前半部分でほぼ回収されています。先に述べたように私にはこの議論に対して賛成とも反対とも判断できるほどの知識はありません。ではなぜわざわざこの記事を取り上げたか。実はこの記事の後半で小幡氏は「膨張しない経済」 という実に興味深い考えを披露しているのです。

 「膨張しない経済」って「サステイナブルな経済」のことなのでは?

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TVドラマ「日本沈没(1975)」(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 俳優の小栗旬氏主演のTVドラマ「日本沈没 希望の人」について以前紹介しました。その際には原作が出版された1974年の映画版の「日本沈没」と比較して、特にその科学に関する描写について否定的な意見を述べさせて頂きました。

 さて、今回取り上げるのは1975年のテレビドラマ版の「日本沈没」ですが、私は「日本沈没 希望の人」のスタッフの皆さんに謝らねばなりません。

 私が2021年のTVドラマ「日本沈没 希望の人」に対して不満だったのは、日本沈没という前代未聞の大きな変動を扱うとき、多くのデータの収集が必要であり個人の力を越えた最低でも国家レベルの取組が不可欠であって、たとえそれが実現できたとしても未来に起こることを正確に、しかも事細かに予測することなどできない、ということを無視している点でした。このため、全ての異変を的確に予言してみせる2021年版の「田所博士」は科学者と言うより預言者のように見えるし、さらにはドラマの展開もご都合主義に見えてしまいます。

 一方、1974年の映画「日本沈没」ではその点が巧く描けていたと思います。1974年版の小林圭樹氏演じる田所博士は預言者ではなく、ちゃんと科学者に見えるのです。

 ところが!映画版の「日本沈没」の成功を受けて作成されたTVドラマ版の「日本沈没」での田所博士は、やっぱり科学者ではなく預言者になっていました。同じ小林圭樹氏が演じているのに…。どうもテレビドラマというフォーマットが「日本沈没」というストーリーと相性が悪いのかも知れない。「日本沈没 希望の人」を作った人たちも頑張っていたんだろうなあ。

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「日本沈没(1973)」の田所博士と「男はつらいよ」の田所教授(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 俳優の小栗旬氏主演のTVドラマ「日本沈没 希望の人」を契機に昔の映画「日本沈没(1973)」について紹介したのですが、今回もそれに関連したお話し。今回は「男はつらいよ」とのクロスオーバーについてです。

「男はつらいよ」は1969年から1995年まで続いた映画シリーズ。監督は山田洋次、主演は渥美清で渥美清氏が亡くなったため1995年で終了となりました。おっと、昔のフィルムを交えた後日譚としての「男はつらいよ お帰り寅さん」が公開されていますから、それを入れれば2019年まで続いたシリーズと言うべきかも知れません。まあ、それを別として26年間作り続けられた上に、物語の性質上日本各地を回って撮影された映画シリーズなので、その当時の日本の情景や世情が自然に封じ込められたタイムカプセルの様なシリーズになっています。

 さて、この「男はつらいよ」のシリーズ第16作、1976年正月映画(1975年12月公開)の「男はつらいよ 葛飾立志篇」には小林圭樹氏が「田所教授」という役で登場するのです。小林圭樹氏は1973年公開の映画「日本沈没」で日本沈没という現象の謂わば第一発見者となる「田所博士」を熱演した俳優さんです。

 「日本沈没(1973)」の田所博士と「男はつらいよ」の田所教授、前者は地球物理学者で在野の研究者、後者は考古学者で東大教授、という違いはあります。でも映画「日本沈没」は実質1974年の正月映画ですから、2年前の小林圭樹氏の田所教授役の熱演を覚えていた当時の観客達にはピンときたのではないでしょうか。もちろん、正式なクロスオーバーというわけではないでしょうが、やはりそこを狙ってのキャスティングかと。

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映画「アンドロメダ病原体」で描かれた安全思想(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 今回は、前回紹介した映画「アンドロメダ病原体」を題材として、「安全」というものについて考えてみたいと思います。この映画、半世紀前の作品ですが、その当時の最先端、というかその当時から見た未来を想像して、宇宙からきた病原体に備えて造られた絶対安全な施設、を描写しています。ある意味、当時の安全思想がそのままフリーズドライされているわけで興味深い題材と言えるでしょう。

 映画のかなりの部分がこの「絶対安全」な施設の中の描写なのですが、いわゆるSFチックなデザインで満ち満ちていて私などはワクワクします。ただ、いろいろな装置の造りが今から見ると雑、というかぶっきらぼうな感じも。曲線を多用したデザインの金属製品のセットを造るのが難しかったのでしょうか。真っ平らの金属面にいきなり鍵穴だけ空いている、といったデザインなど今の目で見ると如何にもレトロな感じ。まあ、それも良い味なのですが。

 おっと、安全の話でしたね。

 この映画のなかで安全を確保するための仕組みは端的にまとめると「完全な隔離」とそれを実現するための「徹底した機械化」だと思います。病原体を完全に封じ込めるための隔離、そして人間は外部から遠隔操作で作業をするのですね。

 理論的にはこれで巧くいきそう。ですが映画を見てゆくとこの考え方の限界も明らかになってきます。

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宇宙から来た病原体の恐怖を描いた映画「アンドロメダ病原体」(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 「アンドロメダ」というと何を思い浮かべるでしょう。私はおじさんなので「拡散波動砲!」とか思ってしまうのですが、皆さんは「アンドロメダ銀河」でしょうか。それともその名前の元になった「アンドロメダ座」でしょうか。さらに遡ってギリシャ神話版奇稲田姫の「アンドロメダ」でしょうか。ともあれ今回のお題の映画「アンドロメダ病原体」では宇宙から来た病原体につけられた名称が「アンドロメダ」という設定です。(とはいえ別にアンドロメダ星雲から来たわけではありません。)

 ぽつんと孤立した小さな町、その町の様子を外からうかがっている人影。それは地球に戻ってきた無人宇宙船のカプセルを回収する任務を帯びた二人組の軍人でした。かれらが町に入ると町中におびただしい数の死体が。そして彼ら自身もすぐに町の人たちと同じ運命をたどることに。

 ことの異常さに気がついた軍部はすぐに生物化学戦対応の態勢で対処を開始します。完全防護服姿の科学者たちが町を調べると二人の生存者、泣き続ける赤ん坊と胃潰瘍で酒浸りの老人と、を見つけたのでした。

 その後、物語はこの病原体の正体と対応策とを探る科学者チームが中心となって進みます。宇宙から来た病原体の恐るべき能力、病原体の漏洩を避けるために自爆用核爆弾まで装備した最新鋭の施設のなかで、病原体についての研究を進める化学者達。そしてアンドロメダ病原体の意外な特性が明らかに…。

 パンデミックをテーマとした映画なのでとてもタイムリーだと思うかも知れませんが、実はこの映画は1971年の作品です。すでに半世紀前の映画なのですね。さて、その内容について。(以降にはこの作品についてのネタバレを含んでいます。)

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白人酋長ものの新境地!映画『MINAMATA―ミナマター』の感想(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 今回はジョニーデップ主演の2020年の映画「MINAMATA―ミナマター」についての感想を。

 事実の基づいた物語。カメラマンとしてかつては名声を馳せたユージン・スミス。しかし今では、年を経て衰えてゆく自らを受け入れられずに酒浸りの自堕落な日々を送っていた。ある日尋ねてきたエキゾチックな魅力に溢れる美女に誘われるままに取材のための旅にでるユージン。彼が訪れたのは1971年の水俣。公害に対する補償を巡る大企業チッソと患者達の争いのなかでユージンは見失っていた自分を取り戻し、報道写真家として患者達の戦いを世界に伝えるために立ち上がる!

というお話し。最初は「ジョニーデップもこんな役をやるんだなあ。」と思えるような疲れた中年、いや初老の男を演じています。なるほど、これは主人公が情熱と自信を取り戻すお話しなんだな、と分かります。水俣に行って人々の複雑な想いや苦難にめげない勇気、温かい思いやりの心にふれて…、と思ったらそれでは済まないハリウッド。謎の美女と共にスパイアクションみたいな病院潜入で大企業の陰謀を突き止める(けど報道はしない)、など結構な活躍をしてみせます。ああ、これは「中年男の再起もの」と「白人酋長もの」を合体させた映画なのだな、と分かります。

 いままでの「白人酋長もの」だと「本国ではうだつの上がらない若者が新大陸で原住民のリーダーとなって大活躍、おまけに美女もゲット」という痛快なストーリーが定番ですが、それでは今のハリウッド映画の(ジョニーデップ映画の、かな)視聴者層にはアピールしないのでしょう。主人公は初老の男。リーダーなんて責任は負わなくてもしっかり特別待遇で、ちゃっかり美女もゲットというところが夢があって楽しいですね。

 

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書評 絵本 「ペンギンのこまりごと」(片桐教授)

| 投稿者: tut_staff

 日曜日の朝、6:15頃から、NHKラジオ第一放送で、「落合恵子の絵本の時間」という番組をやっています。先日(2月13日),付けっぱなしのラジオでそれを聞いていたら、「ペンギンのこまりごと」という絵本を紹介していました。
https://radiko.jp/share/?sid=JOHK&t=20220213060000

 ストーリはペンギンがぶつぶつと不満を言っているのをセイウチのおじさんが慰める?諌める?おはなしです。セイウチのおじさんがどのように不平不満を抱えたペンギンを諭すのか、でも,ラジオではそこのネタばらしはしなかったので気になり、アマゾンの衝動買いで購入しました。2090円でした

 このブログでもセイウチのおじさんの言い分はネタばらしになるので、述べません。でも、セイウチのおじさんは若者の言う「ウザおやじ」でしょうか。私もウザおやじになっていないか、反省させられます。

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カーボンオフセットをお金で買いましょう(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 前回の記事でマイケルサンデル教授の著書「それをお金で買いますか 市場主義の限界」を紹介しました。思いっきり要約すると

なんでも金で解決できると思うなよ!

という内容(いや、違う!)で、思わず「これはダメでしょう」というセリフが口をついて出るような実例がたくさんでてくるのですが、一つどうしてもコメントしたい事例があって今回の記事を書いています。

 「カーボンオフセット」は別にお金で買っても良いのでは?

 「それをお金で買いますか 市場主義の限界」の第2章「インセンティブ」の中にはそのものずばり「カーボンオフセット」というセクションがあります。「カーボンオフセット」とはこの章の中で「地球温暖化への個人的な加担を帳消しにするために、お金を払っては如何でしょう」と、端的に表現されています。たとえば航空機のニューヨーク・ロンドン往復便を利用した人が16.73ドルを払って内モンゴルの風力発電所に寄付をすることで発生した二酸化炭素を帳消しにする、そういう取引のことです。

 さて、「カーボンオフセット」に対するサンデル教授の意義申し立ては二つの論点があると思います。

 一つ目は「カーボンオフセット」が温室効果ガスの削減に対して逆効果となる可能性。「カーボンオフセット」の申し出があることで、温暖化に気兼ねせずに「ニューヨーク・ロンドン往復の旅」ができる様になるとすれば、本当は不要だった旅行もどんどん増えるのではないか。もちろん、カーボンオフセットが正しく行われていれば旅行が増えるほどオフセットされるカーボンが増えるのでトータルでの温室効果ガスの排出量は減るだろう。でも、気軽に旅行に行く人たちの習慣はそのまま温存されてしまうのではないか。

 まずはこの一つ目の論点について、私の考えを述べておきましょう。「カーボンオフセット」が温室効果ガスの削減に対して逆効果となるかどうかは制度設計と制度の実装の問題だと思います。「カーボン」というか二酸化炭素の排出量を正しく算定できるか。そして、それにつり合う削減量も正しく算定できるのか(こちらはもっと難しい)。そして排出量と削減量の公正なやり取りを保証できるのか。これは非常に難しい問題で、私自身どちらかといえばその現実性に懐疑的です。でも、これはいろいろな技術や制度の問題であって、少なくとも倫理的な問題ではないと思います。


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