推薦図書

推薦図書「快眠法の前に 今さら聞けない 睡眠の超基本」(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 本日の推薦図書は

柳沢 正史 監修「快眠法の前に 今さら聞けない 睡眠の超基本」朝日新聞出版 (2024/8/20)

です。私は電子書籍版で読みました。

 監修者の柳沢 正史氏については

筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)機構長・教授。

とあります。最近は睡眠についての話題でTV番組などでコメントしているところを見かける先生なので知っている人も多いかも知れませんね。

 さて、この柳沢教授が「監修者」で「著者」ではない、というのがこの本の一つの特徴でしょう。表紙に「ビジュアル版」とある様に、普通の本のように文章を中心とした構成ではありません。睡眠に関するいろいろなトピックスについて見開き2ページで簡潔に要点を解説する。なんというか、学習参考書の様なスタイルの本なのです。

 いろいろな内容を同じサイズにまとめるとなるとトピックスによって物足りなかったり蛇足と感じられることがあったりと若干のでこぼこが生じるかも知れません。でも、「超基本」とあるとおり、網羅的に全体像をつかむには良い形式なのでは……と、思ったのですが実際に読んでみると、これが結構盛りだくさん。各項目の説明もかなり詳細でこれが「超基本」なら「基本」や「応用」はどんだけ大部になるのやら、と空恐ろしくなりました。いや、睡眠について知りたいなら普通の人はこれ一冊で充分なのでは。そう思わせる充実ぶりでした。

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推薦図書「ほんとうの日本経済 データが示す『これから起こること』 」(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 「人口」という切り口から日本の社会について議論する本は数多くあります。たとえばこのブログで扱ったものでも河合雅司氏の「未来の年表」シリーズ(こちらの記事では「未来の年表2 人口減少日本であなたに起きること 」を紹介しています)などがありました。

 さて、今回紹介するのは以下の本です。

坂本貴志 著

「ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」」(講談社現代新書)

講談社(2024)

この本も上記のような「人口」という切り口から日本の社会について議論する本なのですが、いままで紹介した本とは少し違います。本書の立場は「将来の人口減少社会を予測し警鐘を鳴らす」ものではありません。すでに起こっている人口減少の影響について、なるべく具体的に捉えることに注力した本なのです。

 「はじめに」を読んだ段階ですでに明かなように本書では、日本社会への人口減少の影響はすでに人手不足という形で現れているのだ、という立場をとっています。コロナ禍やロシア-ウクライナ戦争などの影響によりここ数年来、日本の経済、とくに物価や賃金については大きな変動が生じています。ややもすれば、世の中が落ち着いてこのような突発的な事象の影響がなくなれば全ては元に戻るのだ、と考えたくもなります。

 しかし、本書の第1部では日本の経済はすでに「人口減少局面」に入っており労働力不足の影響で賃金が上がり始めているとしています。現在は海外要因(戦争の影響や円安など)によって生じているインフレーションも将来労働力不足による賃金上昇を原因とするインフレーションへと転じるというのです。

 一般的には日本の賃金が上がっているとは認識されていませんが、それは一人当たりの賃金を見るから。昔は働いていなかった女性や高齢者の多くが今や働くようになったものの、彼らの労働時間は比較的短く、一人当たりの平均賃金を押し下げるように作用しています。時間当たりの給与というデータで評価すれば日本の賃金は既に上昇局面に入っていることが確認できるのです。

 バブルの崩壊以降「人余り」だった日本社会はついにその状況を脱し、今や「人手不足」の社会に転じた。それがこの本の第一の主張です。

 続く第二部で、本書の印象はガラッと変わります。

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期末テストに一工夫(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

「こんどのテストはカンニングペーパー持ち込み可だよ!ただしA4で1枚。手書きに限ります。」

「えっ、カンニングはだめでしょう。」

「いやいや、カンニングペーパーをつくる作業自体が授業の要点をしっかりとまとめる勉強になるんだよ。それも込みでのテストであり成績なのさ。」

こんな感じで「カンニングペーパーをつくらせる」というテストの工夫は私が高校生の頃からありました。はて、今の高校でも同じ様なことをしている先生がいるのでしょうか。

 高校生だった私もいまは大学の教員。テストを作る側になっているので、日頃から何か面白いやり方があればなあ、と思っています。そこでふと思い出したのが大学の専門科目で受けたテストのこと。国井大蔵先生の伝熱工学(当時は「単位操作第一」と言ったような)の期末試験で、たしかこんな内容でした

今期の伝熱工学の授業の期末試験として適切な試験問題を作成せよ。模範解答も示すこと。

なるほど、これは良い問題ですね。

 

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核戦争を描いた映画「博士の異常な愛情」(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 持続可能な世界を目指すサステイナブル工学の背景にはこの文明がサステイナブルではない、つまり人類が滅亡するかも知れない、という概念があり、その一番リアルな恐怖は全面核戦争ではないか。ということで核戦争を描いた映画を紹介しています。

 今回紹介するのは「博士の異常な愛情」。1964年のアメリカ映画です。この邦題は若干はったり気味で内容とは関係ありません。でも「ストレンジラブ博士」というタイトルではインパクトは弱いですし、内容が分からないのは同じですよね。

 さて、この作品で描かれる核戦争の恐怖のポイントは意図して戦争を行ったのではなく、トラブルによって偶発的に核戦争が起こってしまう、という点にあると思います。物語はアメリカが「国内のどこかに核攻撃をうければ自動的にソ連全土に対する報復攻撃を行う装置」を開発し、その存在を世界、というかソ連に伝えようとする時点からスタートします。実はソ連も同様の自動報復装置を開発しており、その装置はすでに起動していたのでした。

 これは東西冷戦時に核武装によって戦争を回避するために使われた理論「相互確証破壊」を分かりやすく表現したものです。相手に戦争を仕掛ければ確実に報復される、という状態なら戦争を仕掛ける人間はいないだろう。この考え方は確かに合理的なのですが、米ソ両方が同じ事を考えて同じ体制を作ったとしたら、何かの切っ掛けで戦争が始まれば人類が滅亡することになる。人類を滅亡させるための核兵器を米ソが懸命に作っている様は少し引いた目で見るといかにも奇妙であり、「相互確証破壊」の略称MADが示すとおり、狂った行動であるように見えるのです。

 この「博士の異常な愛情」という映画でおこる「何かの切っ掛け」は米軍の基地司令官が精神の平衡を失う、という事態からスタートします。

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核戦争を描いた映画「渚にて」(江頭教授)

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 以前もこのブログに書いたのですが、サステイナブル工学の前提には「人類はサステイナブルか?」という問いがあり、その問いが真剣に検討されるようになったのは「人類がサステイナブルでは無いかもしれない」、つまり「人類が滅びてしまうかも知れない」という可能性がリアルに感じられる様になったからだと私は思っています。

 人類滅亡の可能性としてもっともリアリティをもっていたのは「核戦争」の恐怖だったと言えるでしょう。というわけで、核戦争を描いた映画を通じて当時の人々の感覚、核への恐怖について考えてみたいと思います。

 表題の映画「渚にて」は1959年の作品です。「世界的な規模の核戦争によって地球の北半分は高濃度の放射能で汚染され、すべての人間が死に絶えた。核戦争の被害を免れた南半球のオーストラリアの人々にも拡散してくる放射性物質による死が確実に迫っている。」という状況のもと、人類最後の人々の最後の日々をこの映画は描いています。

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書評 畑村洋太郎著 講談社文庫版「失敗学のすすめ」(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 今回紹介する「失敗学のすすめ」は東大名誉教授で機械工学が専門の畑村洋太郎博士がその豊富な経験から「失敗」を中心とした多面的な考察を述べた本です。失敗を単にネガティブなものと見なすのではなく、失敗のプラス面、失敗を活かすこと、に注目している点が特徴的で、失敗経験を利用した教育や技術の伝承についても述べています。

 小さな失敗が個人にとって学習の良い機会である様に、人類全体の知識を増やし、新しい技術の確立のきっかけと成る様な本質的な失敗、その意味で「良い失敗」もあるとし、その具体例として本書の第1章で三つの事故を紹介しています。

 一つは自励振動によるタコマ橋の崩落。二つ目は金属疲労によるコメット機の墜落。三つ目は脆性破壊によるリバティー船の沈没です。新しい現象の発見とそれを巧く扱う技術の開発へとつながったこれらの事件を畑村教授は「未知への遭遇」と呼んで他の失敗と区別しています。畑村教授は機械工学の専門家なのでこの3件を選択したたわけですが応用化学の分野で考えればハーバーボッシュ法で作られた大量の肥料(であると同時に爆薬でもある)硝酸ナトリウムの「オッパウ大爆発」はまさに「未知への遭遇」の事例だと思います。(ここは「未知との遭遇」と言いたい所ですが...)

 さて、本書は最初、2000年11月に単行本として出版されました。私は、当時の単行本版を読んで感銘を受けたことを記憶しているのですが、その後で読み直してみて「あれっ?」と思うところもありました。

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推薦図書「ほったらかし投資術」(江頭教授)

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 今回の推薦図書はこちら

山崎 元, 水瀬 ケンイチ 著「全面改訂 第3版 ほったらかし投資術」 朝日新書(2022)

私はこの電子書籍版を読みました。

 タイトルにある「ほったらかし投資術」というのは株式投資に関する方針のことで「リスクを取っても良いと思える金額を全世界株式インデックスファンドに投資してほったらかしにしておく」という投資方針のこと。株式投資の勘所を

「長期投資」、「分散投資」、「手数料の節約」

山崎 元; 水瀬 ケンイチ. 全面改訂 第3版 ほったらかし投資術 (朝日新書) (p.125). 朝日新聞出版. Kindle 版.

と見極めてその実現の具体的な方法として「全世界株式インデックスファンド」を推奨する、という構成になっています。

 さて、前回、前々回と書いてきたように私は金融や経済の専門家ではないのですが、そんな私でもこの本で「これは真実に違いない」と確信したの以下の事実を指摘した部分です。

(1)運用成績は、インデックス・ファンドの平均がアクティブ・ファンドの平均を上回る

(2)アクティブ・ファンドの中で「今後の」運用成績が良いファンドを選ぶ方法がない

山崎 元; 水瀬 ケンイチ. 全面改訂 第3版 ほったらかし投資術 (朝日新書) (p.112). 朝日新聞出版. Kindle 版.

とくに(2)の内容は目からうろこでした。未来を予測することはできないので、当たり前と言えば当たり前なのですが、これをはっきりと言い切っている株式の関係者はちょっと珍しいのでは。これぞまさしく「それを言っちゃあ、おしまいよ」ですよね。この部分を読んで私は本書の著者の誠実さを感じました。

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推薦図書「水俣病の科学(西村 肇, 岡本 達明 著 日本評論社)」(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 これは面白い本です。それも科学の面白さを伝えてくれる本だと思います。

 もちろん興味深い、とか考えさせられる、という面もあるのですがそれ以外の科学の面白さ、あえて言えば「スリリング」な面白さを感じさせてくれる、というのが私の感想です。

 内容は表題の通りで水俣病についての研究成果をまとめたものです。前半はかつてチッソの水俣工場で働いていた岡本氏が当時の状況を解説。水俣工場で水銀がどのように扱われていたか、など水俣病の原因特定までの議論の流れと対比すると興味深い内容です。

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映画 黒澤明「生きる」について追記(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

  黒澤明監督の1952公開の映画「生きる」については前回紹介しました。記事の分類が「推薦図書」になっている通り、私としては「お勧めです」と言いたい映画(推薦図書じゃなくて推薦映画ですかね)なのですが、それでも少々気になる部分がある、というのが今回の内容です。

 先に紹介したようにこの映画は「自分の死が間近に迫っていることを知り、惰性で生きてきた日常を見直し、本当に意義のある仕事に打ち込むことができた」主人公が肯定的に描かれています。このテーマはとても魅力的ですし、それを分かり易く描き出す黒澤監督の技量も見事と言うしかありません。

 特に主人公が「自分にもできることがある」と気づく喫茶店のシーン。誕生日祝いをしている(おそらく)学生のグループが歌い出す「Happy birthday to you」という歌声が主人公の新たな門出を祝福するかの様に店内に響く流れなど実に素晴らしい。素晴らしすぎてリアリティが薄い、というか戯画化されているというか、はっきり言って漫画みたいです。(いや、褒めているのですよ。)

 とはいえ、余りにも巧く出来ているからでしょうか。やはり気になる点があるのです。

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映画 黒澤明「生きる」(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 「生きる」は1952年公開の映画。黒澤明監督の代表作の一つです。以下のニュースにもあるように最近NHKで放送されたのでそれを見ての感想を、というわけです。

 この映画の主人公は市役所で大きな意味もない書類仕事に明け暮れながら「忙しいが退屈」な毎日を送っています。しかし自分が不治の病に冒されていて余命が半年か1年だ、ということを知ることになる、というストーリー。タイトルにあるとおり、自らの死を意識したときから「生きる」ことを見つめ直し、そして一つの答えを得る、と言う物語です。

 翻って、本当は誰もが何時死を迎えるか、じつは分からない。ならば日々そのことを考えて、より良き生き方を模索するべきだ。物語のなかでそのような考え方も語られますが、結末は少しシニカルです。

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