推薦図書

推薦図書「健康になる技術 大全」(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 ここ最近、推薦図書の「悩ましい」ネタが続いたのですが、今回は心置きなく推薦できる本のご紹介です。本のタイトルは

林 英恵 著「健康になる技術 大全」(ダイヤモンド社,2023)

で、私が読んだのはその電子版です。

 いや、タイトルをみたときは大きく出たなあ、大丈夫だろうかこの本、と思ったのですが内容は非常に堅実でした。この本のイントロ部分「はじめに」では

「真」の健康法を見極め、実行し、続ける技術

とあります。この「「真」の健康法」という部分、如何にも怪しい物言いなのですが、驚いたことにこの部分が実に堅実。ここで言う「「真」の健康法」というのは科学的に根拠のある(エビデンスに基づいた)健康法、という意味だったのです。「真」の、という形容に一番相応しいのはやはりエビデンスに基づいたものだ、それに異論のある人は少ないと思います。

 さらにこの本の良いところは「はじめに」に続く第1章を費やしてエビデンスとはなにか、について丁寧に説明してくれて居るのです。

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推薦図書 デイヴィッド・ローベンハイマー、スティーヴン・J・シンプソン著「食欲人」(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 うーん、これは悩ましい本が来ちゃったなぁ、などと思いつつ本日推薦するのはこの本

デイヴィッド・ローベンハイマー、スティーヴン・J・シンプソン著、櫻井 祐子訳「食欲人」(サンマーク出版 2023/5/30)

実は「新版・科学者達が語る食欲」という副題がついている事から分かる様に「科学者達が語る食欲」という図書の新訳版という事のようです。元々は英文の「Eat Like The Animals: What Nature Teaches Us About the Science of Healthy Eating」という図書ですね。

 さて、出版の経緯はともかく、この本はやはり悩ましい。何が悩ましいかというと「推薦」すべきか「紹介」にとどめるべきか、というところ。

 本ブログでは「推薦図書」と「書評」という二つのカテゴリーがあります。どちらも似たようなところがありますが、その本の内容に私が賛同できて、ブログを読んでくださる皆さんにも是非読んで欲しい、という場合には「推薦図書」に、そうではなく「お勧めできないけどコメントしたい」といった場合には「書評」と使い分けているのです。

 はて、本書は果たして「推薦」して良いものなのだろうか。そう言う意味で悩ましいのです。

 前置きが長くなりました。本書では

動物(含昆虫)は自由に餌を選べる場合には、それぞれの栄養分(タンパク質や炭水化物)を自分が必要とする分だけバランス良く食べることができる。

動物は各種栄養素に対してそれぞれの「食欲」を持っていて、それぞれの栄養素への「食欲」が満たされるように餌を食べているのだ

また、餌に制限がある場合は必ず必要とされるタンパク質を摂取できるように食べる。タンパク質が少なく、炭水化物が多い餌しか入手できない場合はタンパク質への「食欲」が満たされるまで、過剰に炭水化物を摂取する事もいとわない

そしてこれは人間に対しても成り立つ。現在、タンパク質が少なく炭水化物や脂肪を多く含む「超加工食品」が世に溢れているが、これが肥満の蔓延の原因なのだ。

とまあ、このような事が述べられています。

 さて、本書を読むと最初は「バッタが餌を食べる様子を観察する」というなかなか突飛な話からスタート。それは丁寧に事実を探り出してゆく科学的な実験についての解説で一見地味でありながら知識が増えるに従ってスリリングになってくる、という良質の科学ドキュメンタリー独特の面白さが確かに感じられます。

 これは是非皆さんに推奨したいと思ったのですが、それからがねぇ…

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推薦図書 I.プリゴジーヌ R.デフェイ 著, 妹尾 学 訳「化学熱力学1,2」(江頭教授)

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 今回の推薦図書は

I.プリゴジーヌ R.デフェイ 著, 妹尾 学 訳「化学熱力学1」「化学熱力学 2」みすず書房 (1966/10/21)

という化学熱力学の教科書です。

 手元にある本書に書き込んであるメモだと私は1989年の9月にこの本を購入し半月ほどかけて読んでいます。毎朝早くに起きて朝食前の時間をつかって読み進めたことを今でも覚えています。

 別に教科書として指定された訳ではないのです。そのころ私は博士課程の学生だったのですが、どうも「化学熱力学」が分からない、そう感じてもう一度勉強しようと思って本書を個人的に勉強した、という次第です。

 その際に強く印象に残ったのは化学反応において、化学親和力(この教科書では「親和力」とだけ記されています)と反応速度の積がエントロピーの生成速度と等しくなる、つまり化学親和力と反応速度の積は常に正になるという De Donder の不等式についての解説でした。

 この不等式自体の導出は熱力学の第二法則といくつかの定義、そして式変形の結果でしかありません。でも積が常に正だ、ということは二つの値はどちらもプラス、あるいはどちらもマイナスだ、と言うことを意味しています。だとしたら、どちらかが原因でどちらかが結果だ、ということにならないでしょうか?この不等式は「化学親和力によって反応が起こる」ということの証明なのだ、と解釈できるのです。

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(推薦図書)中西 準子著「環境リスク学―不安の海の羅針盤」日本評論社(江頭教授)

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中西 準子著「環境リスク学―不安の海の羅針盤」日本評論社

 日本のリスク研究の先駆者、中西準子氏の講演やインタビュー、論説を集めた本です。中西氏は、下水処理の問題を起点に環境問題に科学に基づいた現実的な解決・対応を真摯に探求し続けた研究者であり、環境と安全の問題に科学者の立場から積極的に発言をしていた方です。私も氏のホームページ(後にブログに移行)を定期的にチェックしていたものです。

 この本は、専門家向けではなく、一般の人たちに向けた本で「リスク」の本質がわかりやすく説明されています。

 と、以前は思っていたのですが…。

 いえいえ、別にこの本の内容が間違っている、という訳ではないのですよ。

 たまたま、この本を工学系でない学生諸君と一緒に読む機会があったのですが、私の予想に反して、思ったほどには、本書の内容に納得してもらえなかったのです。

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「日本沈没」の科学描写 1973年版 (江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 「日本沈没」という物語はもともとはSF作家、小松左京氏の1973年の小説です。このブログでは2021年のTVドラマ「日本沈没-希望のひと-」1973年の映画「日本沈没」について紹介したのですが、今回は両者を少し比較してみたいと思います。

 まず1973年の映画版の「日本沈没」から。

 「日本沈没」という物語が世の中に出てすぐに作られたこの映画では日本が海に沈む、つまり沈没する、というお話し、しかも比喩的な意味ではなくて本当に物理的に海に沈む、というお話しを馬鹿馬鹿しく感じさせないように説得力を持たせて描写する必要がありました。そのために、この日本沈没の「第一発見者」である地球物理学者の田所博士(小林圭樹氏が熱演しています)という人物に対する信頼感を観客に植え付けなければならない。この映画にはいろいろな工夫がされているのですが、その一つに政界の黒幕である渡という名の老人が田所博士の人物を見定めるために田所博士を呼び出す、というシーンがあります。

 緊張感溢れるシーンとなっていますが、「今年はツバメが来ない」という渡老人の問に答えて田所博士は「ツバメは例年の120分の1に減っている」「鳥だけではない、海を回遊してくる魚も大変動を起こしつつある」と答えるのです。

 この描写だけで映画「日本沈没」(1973)の田所博士が地球物理学という専門にとらわれず多くの情報をあつめ、系統的に整理していることがわかります。そして老人の次の質問とそれへの田所博士の答え。

「科学者にとって一番大切なものは何かね」「勘です」

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映画「日本沈没」(1973)(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 以前にこのブログで「SFパニックドラマの超有能なイケメン官僚に転生してしまった件」じゃなくて「日本沈没 希望の人」の感想、というタイトルで令和のTVドラマ版の「日本沈没」について紹介したのですが、今回は原作小説が出版された直後に制作された1973年版の映画「日本沈没」について紹介しましょう。

 高度経済成長に沸く1970年代の日本。好調な経済にもかかわらず、測定誤差が消えない地形測量、巣に返らぬツバメなど、一部の勘の鋭い人々は日本に起こっている異変に薄々感づいていた。地球物理学者の田所博士はそれらの事象を丹念に収集し、驚くべき結論を導く。近い将来、日本列島は海に沈む。未曾有の危機から日本と日本人を救うべく、D計画が今スタートする。

この映画、140分というやや長尺(そうでもないか)ではあるものの、映画というコンパクトな時間の中で「日本沈没」という大イベントを一気に描ききります。日常の中に不穏な雰囲気が忍び込んでくるサスペンスフルな前半こそやや丁寧な描写が行われますが、「日本沈没」が確定した後は一大ディザスター映画となり、最後の方はまるで映像スケッチの様です。リアルに描くことが難しい「日本沈没」という異常事態を敢えて克明に描写せず、視聴者の想像に任せた作りになっているのです。

 どうしても「日本沈没 希望の人」と比較になってしまいますが、正直、この映画というフォーマットが「日本沈没」を映像化するには一番相応しいのではないか、と思います。

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(推薦図書)野口 悠紀雄著 「「超」整理法―情報検索と発想の新システム (中公新書)」(1993/11/1) (江頭教授)

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 1993年の(偶然ですが)ちょうど11月出版の本なので、28年前の本ということになります。この当時、なんでもかんでも「超」という言葉を付けるのが流行っていたので、私のこの本のタイトルを見たときの第一印象は「また流行に乗って「超」とかタイトルにつけちゃって」というややネガティブなものだったような。ところが読んでみてビックリ。本当の意味で「超」整理法、整理を超越する、つまり整理をしない、というのがこの本の要点なのです。

 ちょっと話が先走りしましたね。この本はビジネスマンや研究者に向けて、自分のところに入ってくる情報を如何に整理して効率的にアウトプットにつなげるか、という方法・ノウハウについて書かれた本です。これに類する本は「知的生産の技術(岩波新書)」(梅棹忠夫著)をはじめとしていくつも出版されていました。先に「入ってくる情報」と書きましたが、当時のことなので情報は本当に物理的なかたちで入ってきます。要するに情報が印刷された紙がどんどん届いて処理しきれないで溜まっていく、さあどうしよう。という訳で書類整理のノウハウをもとめてこの手の本が読まれていたのですね。

 そこでこの「「超」整理法」なのですが、先ほども述べた様に「整理」という考えを越えた情報の処理方法を提案しています。

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推薦図書 ファラデー著 三石巌訳「ロウソクの科学」(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 「ロウソクの科学」は子供たちに科学への、というか化学への興味をもってもらうためにファラデー(あの、マイケル・ファラデーです)がおこなった実験つき講義を記録した本です。具体的には「1861年のクリスマス休暇に、ロンドンの王立研究所で催された連続6回の公演の記録である」と本書(角川文庫版)の「解説」(訳者、三石巌氏による)に記されています。

 内容はタイトル通り、まずは1本のロウソクからスタートします。ロウソクが燃えるときに起こっている現象の細かい観察からスタートして燃焼という現象・化学反応についての説明に進みます。ロウが蒸発して可燃性のガスとなること、しかし燃焼するためには支燃性のガス、つまり酸素が必要なこと。酸素を含まない空気では炎が消えてしまうことを実験的に示してゆきます。またロウソクから生じるすすに注目して炭素の存在を示し、それが酸素と反応すること、反応して二酸化炭素を生じること。生物(ここではファラデー自身)の呼気には二酸化炭素が含まれていることなども示されます。カリウム金属を使った水素の発生、水素の燃焼から水が生じることなどいろいろな化学反応の実験を手品のように面白く見せてゆくのです。

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科学者のたしなみ(片桐教授)

| 投稿者: tut_staff

 最近立て続けに、コロナ騒動関係のブログ記事を書いていたのですが、気がめいるので、少し違う話題をふります。

 私は車を運転する時にNHK第一放送のラジオをよく聞きます。最近は日曜日や長期休暇時に「子ども科学電話相談」をやっています。小学生が電話で大学の教員や博物館の学芸員に素朴な質問をぶつけるというものです。

https://www.nhk.or.jp/radio/kodomoqmagazine/

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 少し前の休日に興味深いやりとりを聞きました。質問の内容は、小学生の女の子の質問で、「自宅の紫モクレンはヒヨドリに食べられてしまいます。近くの公園の白モクレンは食べられていません。なぜですか?」というものでした。その問の回答者に指名されたのは鳥の専門家の先生でした。

 「そうだねえ、もしかしたら紫モクレンの花の方がおいしいのかもしれませんねえ。ところで、私の横にちょうど植物の専門家の先生がいらっしゃいます。先生、白モクレンに比べて紫モクレンの花はおいしいのでしょうか?」と、これはムチャ振りです。そのように問いを振られた大学院の教授先生は、慌てずに、「私はモクレンの花を食べたことがないので、わからないのですが、紫モクレンはおいしくありませんでした。」と答えられていました。

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世界の人々の暮らしがわかるWEBサイト「Dollar Street 」(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 世界の人々を「豊かな人と貧しい人」に二分するのは間違いだ。世界は急速に豊かになりつつあり、いま最も多いいのは中間の人たちだ、として世界の人々の生活を生活を収入に応じて4段階に分類する。これは以前紹介した「ファクトフルネス」の著者であるハンス・ロスリング博士が提案した考え方です。

 では、世界のそれぞれの経済レベルの人たちはどんな生活をしているのでしょうか。それを視覚的にわかりやすく示してくれるのが今回紹介する「 Dollar Street 」というサイトです。

 サイトのページには通り(ストリート)が描かれています。この通りの右側には収入(ドル基準です)が低い人が、左のほうには収入の高い人が住んでいると考えてください。このサイトでは日常生活のなかのいろいろな写真が収入順で4枚表示され、その収入のストリート内での位置がハイライトされます。写真には住まいの様子、家族のポートレート、家庭で使う道具など、本当にいろいろなものが写っています。その写真を見比べながら豊かな人、貧しい人、そして中くらいに人の生活を想像してみよう、というのがこのサイトの趣旨なのです。

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