研究テーマ紹介

地球上の水の蒸発速度の最大値は?(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 人間が利用する淡水のほとんどは河川や湖から取水したものですが、そのもとをたどれば雨や雪、つまり降水になります。そのもとは大気中の水蒸気、そしてその水蒸気は海からの蒸発と陸からの蒸発散(植物の体を通しての蒸発を蒸散と呼びます。蒸発と蒸散を合わせて蒸発散)で生じたものです。つまり私たちが利用している水は結局は水の蒸発散を経たものなのです。

 蒸発、蒸散によって水は文字通り蒸留されて純粋な水になります。さらに高い位置に降った雨や雪は位置エネルギーを蓄えているので自然に人の住んでいる場所に行き渡ります。(本当は水の行き渡るところに人が住んでいるので、因果関係が逆ですけどね。)また水の位置エネルギーの一部は水力発電によって直接エネルギーとして人々に利用されているのです。

 さて、ひとしきり蒸発、蒸散の大切さを述べたところ本日のお題です。このありがたい蒸発のおおもと、それはやはり太陽からの光のエネルギーです。では、その光のエネルギーでどの程度の蒸発が起こりうるのか、それを計算してみましょう。地球で起こる蒸発の最大値を求める、ということです。

 もちろん、乾燥した暖かい空気が水面に吹き付ける、といった現象によって瞬間的・局地的に急速な蒸発が起こることもあると考えられますが、ここでは地球全体の平均としての蒸発速度の最大値、つまり太陽光線のエネルギーがすべて水の蒸発に使われた場合、として考えていましょう。

 まず、地球軌道に太陽からやってくる光のエネルギーは1367 W/m2です。(これを太陽定数と呼ぶ、というのは先の記事でも紹介しました。)

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van der Waalsの状態方程式とvan der Waals 力(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 化学を勉強すれば必ず「van der Waals (ファン デル ワールス)」という名前を聞くはずです。van der Waalsさんはオランダの化学者、というか物理学者ですかね。フルネームは Johannes Diderik van der Waals (ヨハネス・ディーデリク・ファン・デル・ワールス)1837年生まれで1923年に亡くなっているそうです。(来年で没後100年なんですね。)

 この人の業績はこのブログでも「van der Waals の状態方程式」という記事で紹介しています。「分子に体積があること」と「分子間に引力が働くこと」を考慮して理想気体の状態方程式を修正し、気体と液体を統一的に説明できる状態方程式を作り出した。これが van der Waals の状態方程式なのです。というか、おそらく話が逆で気体と液体を統一的に説明する理論を作ろうとして、その原因を考える中で「分子に体積があること」と「分子間に引力が働くこと」に行き着いたのでしょう。

 分子に体積がない、という理想気体の状態方程式の前提をそのままにしていると「液体の体積は圧力を掛ければいくらでも小さくなる」ことになり、気体との差が出ませんよね。また分子が凝集して液体になるためには分子間に引力が働くことが必要だ、というのもうなずける話です。van der Waals の状態方程式を見てしまった後では当たり前すぎる様にもみえますが、このことに最初に気が付いたとうのはやはり凄い人だと思います。

 とはいえ化学の分野でvan der Waalsといえば「van der Waals力」の方が有名ではないでしょうか。「分子間に引力が働くこと」と書きましたが、この引力がそのまま「van der Waals力」と呼ばれる様になりました。

 この「van der Waals力」というのは少し変わった言葉で「重力」や「静電気力」のように発生する原理に基づいた名前ではなく、気体の性質を考える上で「こんな力が働いているに違いない」という理論からでてきた名称です。「van der Waals力」の物理的な実態は何か、という問題が解決されるのはずっと後のことになります。



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乾燥地に植林する方法(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 オーストラリアの内陸部の沙漠で、どんな工夫で「木が生えない」ところに「木を植え」て、「木を育てる」ことが出来たのか、前回の記事はそれが引きになっていたので、今回はその説明編です。

 植林実験の対象とした場所は西オーストラリアのパースから600kmほど内陸に入ったレオノラという町の近くでした。

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 この辺りは平均の降水量は東京の約1/7と少ないのですが、ときどき内陸に迷い込んできた台風でドンと雨が降ることがあります。しかし、この地域の地面は地表のすぐ下にハードパンと呼ばれる硬い土の層があって、せっかくの雨水も土にしみこまずに洪水となって塩湖にながれて、そこで蒸発してしまいます。

 そこで、このハードパンにドリルで穴をあけて、爆薬を詰めて爆破しました。爆破した後には直径3メートルぐらいでバラバラに砕かれたハードパンと土がつまった穴が出来ます。この穴に木を植林するわけです。

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 そして、穴をたくさん作り、その周りをブルドーザーでつくった土手で囲んで洪水で流れてくる雨水を集める。こんな手法で植林を行ったのです。

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炭素固定に役立つ植林とは(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 昨日の記事では「森林火災が起こって二酸化炭素が放出されても、もう一度樹木が成長すれば同じ量の炭素が固定される」という話を書きました。この要約の後半、樹木が成長すると大気中の二酸化炭素が固定されて減る、という点に注目してみましょう。つまり植林による二酸化他の固定というわけですね。

 森林火災で植生が失われた土地に植林をするのはどうでしょうか。今までも木が育っていた場所ですから巧く木を育てることはできるでしょう。でも、このような土地では自然の状態でも木が生えるはず。その速度を早くするのが植林という位置づけで、無駄とは言いませんが長期的に考えると育った樹木が丸々プラスになるわけではありませんね。

 では森林火災以外の理由で植生が失われた土地を植林したらどうでしょうか。産業革命以降に大気中に放出された炭素、実は化石燃料の燃焼だけではありまあせん。大気中に放出された炭素の約3割が土地利用の変更、つまり「森林を切り開いて農地にした」とか「この町は昔は鬱蒼とした森林だったんだよ」とかが原因なのです。

 じゃあ農地をつぶして植林しましょう、とか、街を植林のために明け渡そう、ということになるでしょうか。いくら何でもそれは無理でしょうね。

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なぜ農場に木を植えるのか(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 オーストラリアへの出張のお話を続けましょう。前回、農場の中に造った植林サイトのドローンによる映像を紹介したので、今回はそもそも「なぜ農場に木を植えるのか」について解説したいと思います。

 まず、下の画像は件の植林サイトのGoogleEarthによる映像です。写真中、道路が左下から右上に通っているのが分かると思います。私達の植林サイトはこの道の図中で下側(南側)の中央付近に造られています。(GoogleEarthにはまだ反映されていません。)

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 この植林サイトの道路をと横切って上側(北側)に写真で色が変わって見える場所が見えると思います。この場所の状況が下の写真です。

 

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植林サイトから道路に向かってやや傾斜があり、その谷間がこの写真の場所です。水が集まっているのですが同時に塩害も起こっていて木が枯れしまったのです。

 農場のなかの高度が低い部分に塩水がたまりはじめて塩害が起こる、しかもその塩湖が大きくなる傾向がある、という現象はこの西オーストラリアでは大きな問題となっています。

 低い場所に水が集まるのは分かるとして塩はどこから来るのでしょうか。この現象はオーストラリアが開拓されたとき森林を伐採して農場に作り替えたことが原因だと言われています。

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「沙漠緑化を設計する」ということ(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

沙漠の緑化、あるいは沙漠での植林を設計する、という表現はいまのところ一般的ではありませんが、沙漠への植林によって何かの効果、たとえばエネルギー源としてのバイオマスの取得やCO2の固定、を期待するのであれば、その目的を達成するために具体的に何を行うかを計画すること、つまり設計することが不可欠となります。

 沙漠での植林も一般的な植林と同様の部分、つまり植栽密度を適切に設定して樹木を植える、という意味での植林が前提となります。さらに、樹種の選定と苗木の確保が必要であり、加えて適切な水源からの水の供給、適切な排水経路の整備、土壌改良、場合によっては流砂の固定などの土木作業といった性質の違う作業を組み合わせて行うものとなります。最適な成果を上げるためには現地の状況や植栽後の気象の経過などに応じて適切な対応を続けることが求められるでしょう。そして広大な土地に、すくなとも十年、長ければ数十年やそれ以上の期間で森林が維持されることが期待されています。

 このような理想的な乾燥地植林を想定するとはできます。しかし、一般的な機械産業・素材産業など工場における生産システムや、非乾燥地での農業と比べて、沙漠緑化には固有の難しさがあると考えられます。

 

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「大学の学びはこんなに面白い」の取材を受けました(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 「大学の学びはこんなに面白い」というのは本学WEBサイトのコンテンツです。応用化学科に限らず、本学のいろいろな学科・学部の先生が自分の研究・教育について語るのですが、専門のライターの方とインタビュー形式で記事を作成しているのがユニークな点です。大学の先生はどうしても専門的な知識を前提とした話し方になりがちですから、わかりやすい記事を作るためのうまい工夫だと思います。

 さて、下の写真がその時の…ではありません。実は私がこの「大学の学びはこんなに面白い」というシリーズに登場するのは2回目。これは前回、まだ本学の工学部が設立準備中だったころの記事なのです。

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講演会で鳥取に行ってきました(片桐教授)

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 片桐です。11月13日に鳥取大学で行われた「第11回フッ素化学セミナー」で招待講演をしてきました。演題は「有機フッ素化合物の特性を利用した機能材料を指向する結晶工学 」内容は有機フッ素化合物は真のナノテクノロジーの材料として使えるか?というものでした。会場は工学部の第講義室でおおよそ100名の聴衆を前に大ほらを吹いてきました。

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 このフッ素化学セミナーは「フッ素化学討論会」のプレシンポジウムとして毎年開催されています。私はこれらの学術会合を主催する「日本フッ素化学会」の理事をしており、本当はフッ素化学討論会も参加しなければならないのですが、火曜日1限の量子化学の講義のため、泣く泣くこのセミナーに、しかも自分の発表だけして帰ってきました。残念。

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Fischer-Tropsch合成について(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 先日紹介した応用生物学部と工学部の共同研究プロジェクト、そのなかで少しだけ「Fischer-Tropsch合成」に触れました。この反応は一酸化炭素(CO)と水素(H2)から液体燃料を作成することができるプロセスです。石炭やバイオマス由来の炭素のガス化と組み合わせると石炭やバイオマスから液体燃料(軽油など)が合成できることになります。


 そんな反応があるのか!と思う人もいるかもしれませんが、FT合成自体は古くから知られていた技術なのです。


 私個人の記憶では、FT反応の話を知ったのは私が大学の3年のころでした。東京大学の藤元薫教授(当時。現在も、一般社団法人HiBD研究所で液体燃料の研究を続けておられます)がこの反応を研究されていて、いろいろな種類の炭化水素が生じる反応をどのように研究してゆくのか、想像もつかないな、と思っていたことを記憶しています。今にして思えば、生成物の分布は完全にランダムという訳ではありませんし、炭化水素のいろいろな物性にも分子量に対してプロットしてみればそれなりの規則性があるものなので、不可能というわけではありませんね。


 私が学生だったころはオイルショックの記憶が生々しい時期でした。(高校生の皆さんは当時の雰囲気をお母さんやお父さんに聞いて見ると良いと思います。)「石油が無くなったらどうしよう」という不安感が世間にあふれていましたから、石炭(の炭素)から石油の代替品をつくることができる、という点でFischer-Tropsch合成はとても魅力的に見えました。


 さて、以下の図はこのFT合成を行うパイロットプラントや工業プラントで用いられた反応器の装置図です(藤本先生が書かれた「合成ガスから液状炭化水素の合成」 有機合成化学協会誌 41(6), 532-544, 1983 と題する解説記事から引用しました。) オイルショックから間もない時期でもすでにいろいろな反応器が実用化されていたことが分かります。

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共同研究プロジェクト「バイオマスの液体燃料への変換と有効利用Ⅱ」について その2(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 前回に引きつつき、東京工科大学の共同研究プロジェクト「バイオマスの液体燃料への変換と有効利用Ⅱ」について紹介します。

 前回は八王子市と東京工科大学の共同プロジェクト「バイオマスの液体燃料への変換と有効利用」の成果を引継ぎ、バイオマスのガス化によって得られる一酸化炭素と水素から液体燃料を合成するプロセスを研究するプロジェクトを開始したこと、それが「バイオマスの液体燃料への変換と有効利用Ⅱ」である、という紹介をしました。

 また、このプロジェクトでは本学の応用生物学部と工学部が共同で研究を進めている、という点も述べました。

 さて、この新しい研究では先行する「バイオマスの液体燃料への変換と有効利用」の成果を引継ぎ、以下様な反応装置を使って「Fischer-Tropsch反応」により液体燃料(合成軽油)を製造するプロセスを対象としています。

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