解説

光合成に使われる太陽エネルギーはどれくらい? 純一次生産から(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 太陽から地球に到達する光のエネルギーは342W/m2。その約3割は反射され 約2割は水の蒸発に使われることになります。

 そして、こちらの記事では光合成に使われる割合(ただし陸上での値です)を計算し、約三百分の一程度という結果を得ました。

 今回は別の角度から、地球全体で光合成によって得られる、というか光合成によって植物が蓄えるエネルギーを計算してみましょう。植物が光合成をしても、植物自身が消費してしまう分のエネルギーは私たちは利用することはできません。(私たち自身が光合成ができれば話は別ですが…。)

 植物の光合成から植物自身の呼吸を引いた部分、要するに植物が成長してバイオマスが増える部分を一次生産と呼びます。(なお、呼吸を引く前の値は一次生産と呼びます。)この純一次生産についてのデータが、

 日本生態学会 編「生態学入門」(東京化学同人 2004)

という教科書の「地球の純一次生産速度と植物の現存量」(表9.1)という表にまとめられているのを見つけました。

 生態系によっていろいろな値をとるのですが、陸地の平均は 773 g/(m2・y)、 海洋の平均は 152 g/(m2・y)、そして全地球平均で 333 g/(m2・y)  となっています。

 前回と同様、この値が太陽エネルギーのどの程度に相当するのか、計算してみましょう。

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「豊洲、ベンゼンは基準の79倍」という記事がありましたが…(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 豊洲の地下水の汚染の問題は随分前(6年程前)に話題となったお話。すでに建設された豊洲市場については特に(地下水由来の)問題がニュースになっている訳でもないのですが、この事件(?)についての報道はある意味で環境問題について考えるべき論点が典型的に現れている様に見えるのです。

 当時の記事で表題の様に豊洲の地下水は「基準」の79倍の濃度だ、と書いてありました。でもベンゼンの「基準」には実は2種類あるのです。当時ニュースになった79倍の方は「環境基準」との比較。でももう一つの基準である「排水基準」との比較なら7.9倍になるのです。

 「環境基準」と「排水基準」、同じ基準でも意味は異なっています。

 まず「環境基準」から。環境省のWEBサイトの記述には

環境基本法(平成5年法律第91号)第16条による公共用水域の水質汚濁に係る環境上の条件につき人の健康を保護し及び生活環境(同法第2条第3項で規定するものをいう。以下同じ。)を保全するうえで維持することが望ましい基準(以下「環境基準」という。)

という定義(?)が出ています。公共の水域では維持することが望ましい基準であるとされています。ベンゼンについての基準は「人の健康を保護するために定められた基準」と分類されていて 0.01mg/L 以下となっています。

 一方、「排水基準」は「この濃度以上の有害物を含む排水を出してはいけません」という基準であり、ベンゼンの場合は 0.1mg/L 以下となっています。つまり排水基準は環境基準の10倍なので、先ほどの7.9倍と79倍の違いはここから来るのです。

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光合成に使われる太陽エネルギーはどれくらい?(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 太陽から地球に到達する光のエネルギーは342W/m2という記事を以前書きました。そして、その約3割は反射されるので地球に吸収されるエネルギーの密度は約240W/m2という話をこちらに。

 さて、今回のお題はこの太陽エネルギーのうち、光合成に使われるのはどのくらいか、という点に注目してみましょう。

 今回も元データは教科書

 坂田昌弘・編著「環境化学 (エキスパート応用化学テキストシリーズ)」(講談社サイエンティフィック 2015)

から。光合成に関する情報として

 光合成による炭素固定速度 123 GtC/y

(24ページ、図2.4より)というデータがありました。ただし、これは地表のデータですから、海の植物(プランクトン)の光合成の速度は含まれていません。

 地球の全表面のうち、陸地の面積は約3割の1.47×108 km2 、です。この数値から面積当たりの光合成速度(CO2の吸収速度)を計算すると 2.651×10-5g/(m2s) となりました。物質量( mol )で表すと 2.21×10-6mol/(m2s) です。

 では、このデータから光合成に必要なエネルギーを計算してみましょう。

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水の蒸発に使われる太陽エネルギーはどれくらい(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 太陽から地球に到達する光のエネルギーは342W/m2という記事を以前書きました。そして、その約3割は反射されるので地球に吸収されるエネルギーの密度は約240W/m2という話をこちらに。

 さて、今回のお題はこの太陽エネルギーが何に使われるかです。最終的にはすべて地球を暖めることになるのですが、その前に一番大きな割合を占めていそうなのが「水の蒸発」。以前の記事で太陽エネルギーの全てが水の蒸発に使われると仮定して水の蒸発速度の最大値を求めたのですが 4778mm/y という結果を得ていますが、その祭「太陽エネルギーの側から見ても地球の水を蒸発させるという働きは結構な割合を占めているということでしょう」と書いたのですが、以下それを検証してみよう、具体的にどのくらいなのかみてみよう、ということです。

 以前にも紹介した教科書

 坂田昌弘・編著「環境化学 (エキスパート応用化学テキストシリーズ)」(講談社サイエンティフィック 2015)

には水の蒸発速度として以下の様なデータが紹介されていました。

 海上の総蒸発量 436.5×103 km3/y

 陸上の蒸発散量  65.5×103 km3/y

(20ページ、図2.1より)

 地球表面に占める海と陸の面積比は約7:3であることを考えると、やはり海からの水の蒸発が、面積当たりでも大きい、ということがわかります。陸地での値が「蒸発」量ではなく、「蒸発散」量になっている点は以前説明したように、陸地での水の気化に植物の寄与(蒸散)が大きく働いているからですが、それでも海での蒸発の方が盛んだ、という事ですね。

 さて、このデータから蒸発に必要なエネルギーを計算してみましょう。

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ガス流量のはかり方(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 今回のお題はガスの流量の測定方法についてです。

 気相反応の触媒についての実験では反応器を出てきたガスの流量を測定する、というのはよくある操作です。反応前に実験条件を確認する意味で、あるいは反応中に流量が変化していないかチェックする、などいろいろな局面があります。

 流量のはかり方にもいろいろありますが、今回紹介するのは液膜流量計というタイプ。装置は簡単なつくりで、原理も明白(と、いうか原理と言うほどでもない)なのでよく使っています。

 さて、下の写真がその装置の図。どこかで販売しているかと思って少し探したのですが結局見つからず、ガラス加工をしてくれる会社に注文して作ってもらいました。

 流量計の本体は容量の目盛がついた太めのガラス管の上下、そして下側面にホース口をつけたものです。これを垂直に立てて、下のホース口にはスポイトのゴムを付けて使います。下側面のホース口がガスの入り口、頂点のホース口が出口です。

 「これでどうやって流量がはかれるの?」 ご不審はごもっとも。以下、それを説明しましょう。

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有意義なディスカッションをするために(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 前々回は「朝まで生テレビ」、前回は私の研究室のディスカッションについて書いてきました。後者は(我田引水ですが)結果の出る討論として、前者は結果の出ない討論だ、と私は考えています。今回は結果の出るディスカッションをするために必要なこと(正確には研究室のディスカッションで結果を出せるように私が心がけていること)をリストアップしたいと思います。

 まず最初は討論の対象と目的をはっきりさせることです。

 先の紹介した「朝まで生テレビ」では「日本の閉塞状況をどうやって打破するか」という討論の目標が示されていましたが…、いや、ざっくりしすぎでしょう。「朝まで」と言いながらも時間は4時間しかないのですから有意義な議論をするにはテーマを絞らないと。

 その点、研究室のディスカッションでは目的はクリアです。ディスカッション前までの1週間に出た成果について話し合って、次の1週間の目標を決める。実験結果の中身の解釈で悩んだり、目標を定めることに不安があったりすることはあっても、ディスカッション自体の目標は決まっています。そしてメンバー全員に共有されているのです。

 2番目は互いに何を言っているのか、話しの内容がきちんと理解できるようすることです。

 

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地表にとどく太陽エネルギーとアルベド(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 太陽から地球に降り注ぐエネルギー、地球の自然と人間にとって大きな恵みであるこの太陽エネルギーはどのくらい地表に届いているのか。こちらの記事で地球全表面での平均で約342W/m2となることを紹介しました。

 「地球は青かった」の言葉通り、地球は宇宙空間から見えている。ということは地球に届いた光の一部は反射して宇宙に戻っていることになります。今回のお題は地球に降り注ぐ太陽エネルギーのうち、どの程度が反射されるのか、です。

 地球の表面は均一ではないので、反射の状態は土地によって異なります。入射する太陽エネルギーのうちで反射する光のエネルギーの割合を「アルベド」と言いますが、土地によってその値は異なっています。新しい雪の積もった雪原なら0.9程度。真っ白な雪原では9割の光が反射されます。地球上で大きな面積を占めている海のアルベドは実は小さくて0.06程度だと言います。雪原とは逆に太陽エネルギーの94%は反射せず、吸収されるということですね。

 海と同様、アルベドが小さいのが森林です。0.09から0.15だといいます。太陽の光を吸収することに適応した生態系ですから、これは納得のいくところです。一方、砂漠のアルベドは0.4程度とずっと大きな値です。

 地球の7割の表面積を占める海、それに陸地を覆っている森林のアルベドが小さいなら地球全体の平均のアルベドは小さいのかな、と思いますが実は0.3程度と、それなりに大きな値となっています。これは何故でしょうか?

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太陽エネルギーの量と太陽定数(江頭教授)

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 地表に降り注ぐ太陽の光は地球を暖め、水を蒸発させて雲をつくり雨を降らせ、植物を育てて私たちの命を支えてくれる、太陽電池を使えばエネルギー源にもなる、何よりも大きな自然の恵みといえる太陽の光ですが、どのくらいのエネルギーを地球に与えているのでしょうか。それが今回のお題です。

 すぐにわかる事ですが、地表のどこか一点で考えてもこのエネルギーの量は激しく変動しています。昼もあれば夜もある。夜の光のエネルギーは0です。夏もあれば冬もある。晴れの日もあれば曇りの日もある。加えて地表のどの場所を選ぶかでも違いがあります。赤道直下の暑い太陽、極地の白夜。太陽の恵みはかなり不平等な様です。

 さて、視点を宇宙に移して太陽光線を受けている地球を外から見てみましょう。太陽からの光は360度全ての方向に広がって行きます。太陽からの距離の二乗に反比例して弱くなっていく太陽の光。地球の軌道で地球ぐらいの物体を考える時にはほとんど平行光線として見ることができます。この地球の外、地球の軌道上でみた太陽からの光のエネルギーの密度を太陽定数と呼びます。その実測値は1367 W/m2。地球の外なので昼も夜も関係ありません。もちろん、夏も冬も、北も南も関係なくひとつの値が決まります。(厳密には太陽の活動に呼応して変動しているのですが、その変動幅は小さいそうです。)

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 さて、太陽定数というひとつの基礎データが与えられたところで最初にもどって地表に降り注ぐ太陽のエネルギーについて考えてみましょう。先ほど太陽の恵みは不平等で場所と時間で大きく変動する、と書きましたがその平均値はどれくらいでしょうか。地表のどこか一点で、1年間太陽光を計測して平均値を求める。それを地球全体で行って全ての平均を計算する。この手順で太陽エネルギーの平均値を求めることができます。いや、天気の善し悪しも含めると1年間の平均では不充分でしょう。それはさすがに複雑過ぎるので、大気圏の外での太陽エネルギーについて考えることにしましょう。

 実はこの意味での太陽エネルギーの平均値、びっくりするくらい簡単に計算することができるのです。

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一酸化炭素はなぜ危険か(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 皆さんは「締め切った部屋でストーブを焚いている場合は、ときどき換気しましょう」という注意を聞いたことがあるでしょうか。これを読んでいるあなたが高校生ならば聞いたことないかもしれません。エアコンが普及する以前、部屋の暖房にはストーブが使われていてガスや灯油が室内で燃焼されていたわけです。この注意はストーブが火が不完全燃焼した場合、締め切った部屋だと一酸化炭素が溜まって、一酸化炭素中毒を引き起こす、それを防ぐための注意喚起なのです。

 でも、なぜ一酸化炭素で中毒が起こるのでしょうか。「一酸化炭素は赤血球のなかのヘモグロビンと酸素より強く結びついてしまって離れない。酸素を体内に運ぶヘモグロビンが一酸化炭素に占拠されると体内に酸素を運べなくなって息ができても窒息してしまう。」というのが、その理由です。

 ここまでは良く聞く話ですが、もう一方踏み込んでみましょう。では、いったいどれだけの一酸化炭素を吸い込んだら危険なのでしょうか。

 事務所衛生基準規則では事務所内の一酸化炭素濃度は「百万分の五十以下」つまり50ppm以下でなければならない、と定めているので50ppm程度なら吸い込んでも問題ない様です。ただ、これは一定量の一酸化炭素を吸い続ける場合の話です。一時的に一酸化炭素を大量に吸い込んでしまう、というケースではどうなるのでしょうか。これは人の体の中のヘモグロビンの量に関係がありそうです。

 日本中毒情報センターで公開されている情報によれば体の中のヘモグロビンの10%~20%が一酸化炭素と結合すると症状が現れてくるそうですから、体内のヘモグロビンと結合する一酸化炭素量の10%以下の量に抑える必要がありそうです。

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水の蒸発速度はどのくらい?(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 表題の質問「水の蒸発速度はどのくらい?」の答え、一般論なら「条件によって変わります。」です。

 今回は身の回りの水がどのくらいのスピードで蒸発しているのか、を考えてみましょう。

 「食事中にコップの水が蒸発して空になってしまった」なんて事はありません。

 コップに溜まっている水の深さが10cmくらい、食事の時間はたとえば1時間とすると水の蒸発速度はどんなに早くても10 cm/hよりは小さいでしょう。

 同じように「コップに水をいれたままにしたら翌日には蒸発していた」というのもありそうもない話ですから、蒸発速度は最大でも10 cm/day 以下、これが上限です。

 逆に蒸発速度の下限、最低でもこれぐらいの速度で蒸発する、という速度について考えてみましょう。「食器を洗ったあとに拭かないと跡がのこる」という話、以前このブログでも紹介した話です。例えば深さ0.1mm程度の水滴が残ったとして翌日には乾燥していると期待できるので、蒸発速度は少なくとも 0.1mm/day よりは大きいのではないでしょうか。

 身の回り、つまり室内環境での水の蒸発速度は、最大 10 cm/day、つまり100 mm/day から最小 0.1 mm/day の間。かなり幅の広い推定ですが実際はどのくらいなのでしょうか。写真のようにビーカーにグラフ用紙を貼り付けて実験してみました。

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