解説

リサイクルが必ずしも良いとは限らない(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 日本には鯨を食用にする、という文化がありますが、これは海外の人からは奇異に見られることもあるようです。

日本人は悪魔か!肉を食べたいなら家畜で我慢しろ!!

という向きもあるようですが、これは日本の伝統文化なのでしょうがない。それに捕まえた鯨は単に食用にするだけではなく、その体のいろいろな部分を利用していました。ヒゲ鯨の「鯨髭」などはプラスチックのない時代には便利な材料だったのだろうと想像できますよね。逆に言えばプラスチックのある現代において捕鯨を正当化する理由にはなりにくいでしょうか。

 現在、そして将来についてはともかく、伝統的な捕鯨では鯨は有効利用されていたというのは事実なのでしょう。では、家畜の体、それも肉以外の部分の利用はどうなっているのでしょうか?

 たとえば牛の場合。いわゆる肉を採取した後も内臓が「ホルモン」として食用に供されています。また革製品の材料になったり、油を収集して再利用したり。それなりの量が安定して供給されるわけですからいろいろな利用方法が確立されているのですね。とはいえ、そのように利用可能な部分を取り除いてゆくと、どうしても利用出来ない部分がのこります。

 その残渣をどうするのか。もともとは牛のからだの構成物なのですから、再度牛の体に戻してやる、つまりリサイクルする、という発想は……自然じゃないかもしれませんが、合理的ではあるでしょう。牛の体の残渣を砕いて子牛に食べさせるのですね。

「さあ、可愛い子牛ちゃんたち、栄養たっぷりのごはんですよ。」

「わーい、おいしいなあ。」

「それはよかった、これは君たちのお母さんなんだよ。」

「わーい、お母さん大好き!」

悪魔か!

Eto_remake_ushi

続きを読む

「破裂」か「爆発」か?(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 まずは以下の記事をご覧ください。我々、東京工科大学工学部応用化学科の片桐教授がテレビのニュースでコメントした、というお話し。実際のニュースは中京テレビニュースのyoutubeでこちらで公開されています。

 これは他大学の化学の研究室で起こった事故、年末の大掃除の途中だったのでしょうか、薬品のビンが「破裂」した、というのです。

 さて、ここでわざわざカッコつきで「破裂」と書いたのは同じ事故についての別のニュースでは「爆発」と表記しているものが多いからです。つまり「爆発」と「破裂」という二つの表記があるのですね。

 まず「爆発」と表現しているニュースについて。これは片桐先生が出演しているニュースの映像にもあるのですが、事故の第一報が「薬品が爆発した」という関係者からの通報であったことが根拠なのでしょう。本人たちが爆発だ、と言っているのですから「爆発」が起こった、とニュースにしたというわけか。

 実は注意してみると各社の報道には微妙な違いがあって、爆発が起こった、と地の文で書いているところと、「爆発が起こった」と通報があった、と伝聞として「爆発」を伝えているものとがありました。

 その一方で片桐教授のコメントを公開している中京テレビニュースでは「破裂」と呼んでいる。これはいったいどうしてでしょうか。

Photo_20251230073601

続きを読む

化学反応は原料分子にとっては「死」を意味するが、同時に生成物分子にとっての「誕生」でもあるのです。(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 いや、人生の教訓とか、哲学的に深いこととかを言いたいわけではないのです。実は前回の記事の「死亡率」にまだこだわっているのです。

 まず、死亡率ですが英語では「mortality rate」と言うのですが(あるいは「death rate」という表現もあるそうです。ちょっとどぎつい言い方ですかね。)、これ「mortality」が「死亡」で「rate」が「率」ですよね。

 これは別に良いのですが、私は化学の、特に化学工学の先生なのでどうしても比べてしまうのですよね。「reaction rate」という言葉と。

 「reaction」というのはこの場合は「反応(化学反応)」のことで、その「rate」だから「反応率」でしょうか。いえいえ、「reaction rate」の和訳は「反応速度」なのです。

 まあ「rate」という英語には「割合・率」という意味も「速度」という意味もあるそうです。(ついでに「比率」、とくに「交換比率」という意味もあります。「円ドルレート」なんてよく聞きますよね。)なので、訳語が「率」になろうが「速度」になろうが、間違いではないのですが、なにか気になります。

 というか、前回の記事では私は

「死亡率」ではなくて「年間死亡率」と書くのが相応しい表現のような気もします。数値も単位をつければ「7.0人」とかではなく「7.0人/年」とか書くべきですよね。いや、もっと言うと単位が「人/年」なら、これは「死亡速度」と書くべきなようにも思います

と書いているのです。なぜこう感じたのかを考えてみて「reaction rate」との対比に思い至った、と言うわけ。一体何が違うのだろう?

 

Scince_jikken_20251215062501

続きを読む

一酸化炭素中毒に男女差?(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 ここ数回の記事では一酸化炭素中毒について考えてきました。昔(それこそ産業革命以前)の建物は気密性が低く、家の中で火をたいても一酸化炭素中毒にはなりにくかった。わざわざ換気をしなくてもすきま風で新鮮な(そして冷たい)空気が入ってきたのですね。

 それが高度経済成長期に建材が革新されると部屋の気密性が一挙に向上。当時普及した石油ストーブやガスストーブの不完全燃焼による一酸化炭素中毒が無視できないリスクになり始めた。それが意識されたため「ときどき部屋の換気をしましょう。」というCMが作られたのでしょう。(思えばこれが話の発端でしたね。)

 ところが、その後のエアコンの普及によってストーブはマイナーな存在に。燃焼を伴わない暖房器具であるエアコンのおかげで一酸化炭素中毒のリスクは低減した、と思われる。

 さて、ここまでは今までの記事の振り返り。そして、はっきり言えば、単なる推測です。いや、本当はどうなんだろう。ちゃんとしたデータで裏付けることができるのでしょうか。

 と、言うことで一酸化炭素中毒による死亡者についての文献をさがすと、以下の様な論文を見つけました。

伊東 岡、中村 好「日本における一酸化炭素中毒による死亡 -1968-2007年の人口動態統計をもとに一」日臨救医誌(JJSEM)2010:13:275-82

というもの。そのものズバリ、という感じですよね。

 で、結果は以下のグラフに。えっ、これってどういうことなの?

Fig1_20251217052101

続きを読む

熱の伝わり易さ、電気の伝わり易さ(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 少し前の記事なのですが物質毎の「熱の伝わり易さ」についてこちらの記事で紹介しました。「温度勾配 1℃/m に対して1秒当たり1J(つまり1W)の熱が 1 m2 当たりに流れるような物質の熱の伝わり易さ」を「熱伝導度が1 W/mK だ」と表現するのですが、この基準でいろいろな物質の「熱の伝わり易さ」つまり「熱伝導度」を調べると0.01未満から1000を超えるところまで実に5桁、10万倍以上の変化を示す、という話です。

 素直に数字をみて「すごく大きな変化を示すのだなあ」などと思って頂ければそれで何の問題もないのですが、はて、他にもっと振れ幅の大きい物性値はないのでしょうか。

 例えば電気の伝わり易さ、電気伝導度はどうでしょうか。世の中には「導体」「絶縁体」という分類が知られていますが、両者はどのくらい違うのでしょうか。

 物性値としては電気の伝わりやすさである「導電率」(つまり「電位勾配1V/m に対して1Aの電流が1m2当たりに流れるような物質の電気の伝わり易さ」)ではなく、伝わりにくさの指標である「抵抗率」(「導電率」の逆数)が用いられるのが普通だそうです。その抵抗率でみると、たとえば電気を通しやすい物質(「導体」)の代表である銅の抵抗率は 1.68×10-8 Ωm 程度だとか。 その銅で作られたケーブルの被覆としてよく使われている絶縁体のポリ塩化ビニルの抵抗率は1010~1013 Ωm のレベルだそうです。その差は18桁から21桁。(「100京倍から10垓倍くらい」といってもほとんど実感がわかないですね。)とんでもないレベルでの違いなのですね。

 さて、ここで想像をたくましくしてみましょう。熱の伝わり易さにも電気並みに18桁から21桁の差があったとしたらどうなるのでしょうか。

Pic

続きを読む

金属マグネシウムはなぜアルミより軽いのか(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 前回、マグネシウム合金の話を紹介したのですが、もう少し話を続けましょう。金属マグネシウムがアルミと比較して優れている点は何でしょうか?機械材料としてみると、もっとも注目すべき点はその軽さ(密度の低さ)だといいます。実際、金属マグネシウムの密度は 1.74 g/cm3 であり、アルミの 2.70 g/cm3 の 64% 、ほぼ2/3しかありません。

 さて、皆さんはこのデータを見てどう感じるでしょうか?MgとAlは周期律表では隣同士。確かにMgの方が原子番号が小さい分、一個の原子の重さも軽そうです。

 調べてみるとAlは殆ど質量数27の原子からできていて平均原子量は26.98だとか。一方Mgは質量数24の原子が約9割を占めるものの25、26の原子も含まれるため平均原子量は24.30となるそうです。原子量だけを比較するとMgはAlの約90%です。金属マグネシウムがアルミより36%軽い理由のうち10%程度が「原子そのものの重さ」の違いなのですね。

 36%のうち10%の説明が付いたとして、残りの26%は何が違うのでしょうか。Atomver201806

 

 

続きを読む

溶鉱炉の壁は何でできているの?(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 今回は私の専門、化学工学に関係した話題です。化学工学とは「化学プラント設計学」と説明しているのですが、私はその中でも反応工学を中心にしています。で、反応工学については「反応器を設計する工学」と説明しているのですが、いつも思っているのは「反応器の最高傑作は溶鉱炉だ」ということです。

 溶鉱炉が反応器だ、というと(金属工学の先生を中心に)何を言っているんだ、ということになりそうです。でも溶鉱炉では炭素(コークスとして供給されます)と酸素(空気が吹き込まれています)が反応して一酸化炭素を生じ、その一酸化炭素によって酸化鉄(これが鉄鉱石)が還元される、という化学反応が起こっているのですから立派な反応器ですよね。

 先日、授業のなかで鉄の製造について説明していたのですが、この溶鉱炉の凄さに関して

溶鉱炉は古くからある技術。昔は高温に耐えられる材料も限られていたのに、反応が起こる場所はものすごい高温でターミネータ2でも融けてしまうぐらいだ

と指摘しました。(数名の学生さんがサムズアップしてくれて、ちょっと嬉しかったです。)

Hand_good

続きを読む

「地球」環境問題とは?(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 「地球環境問題」と言われたら、あなたはどんな問題を連想するでしょうか?「地球温暖化」や「オゾン層破壊」は定番ですよね。では「海洋プラスチック問題」はどうでしょう?

 これは立派な地球環境問題だ、と思う人も多いかも。たしかに世界の海は一つにつながっています。一つの国の起こした問題が世界中の国に被害を……いや、そんな事なくない?

 日本の国は海に囲まれています。外国のことを「海外」というぐらいで、国というもは何となく海で区分されているような気がしているのでは。でも、日本国内に「海のない県」(山梨県とか。海がないのに山なしとはこれ如何に。)がある様に、世界には海のない国、とうか海と接していない国もあるのです。

 イメージし易い国としてスイスを挙げましょう。スイスには少なくとも海洋プラスチック問題の被害国ではありませんよね。それに加害国だとも言い難い。いや、現代社会のプラスチック文明の一翼を担うスイスもその道義的責任を、なんて言い出したら何でもかんでも地球環境問題になってしまいます。工場の騒音震動や焼き鳥屋の悪臭も含めて「地球」環境問題だというのか!

 いやいや、極論を言う必要はありません。具体例として「酸性雨」を考えてみましょう。

Ondanka_earth_20251030202701

続きを読む

都市ガスと自動運転(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 私達応用化学科の入っている東京工科大学八王子キャンパスの片柳研究棟では、基本的には都市ガスの供給がありません。つまり「オール電化」なんですね。さて、基本的には、と言ったのは例外があるから。例えば応用化学科の学生用の学生実験室には都市ガスが供給されていて、全ての実験机にガス栓がついています。

 もちろん、安全対策もとってあります。ガスを利用する際にはコントロールパネルのスイッチを入れる。自動で漏れチェックが行われた後にガスの供給がスタート。コントロールシステムは非常時にはガス栓を自動停止する機能も付いています。そして使用終了時にはコントロールパネルのスイッチを切りガスの供給を停止。ガスの安全な利用について、如何に気を遣っているか分かりますよね。

 これ、「安全に気をつけていて偉い」といえるかもしれませんが、逆に考えると都市ガスというものがそれほど潜在的な危険性をもっている、ということでもありますよね。

 都市ガスというシステムが存在していなかった、そういう世界を想像してみてください。その世界で「場合によっては爆発する可能性のある可燃性のガスを都市全体に張り巡らせたパイプのシステムを通して各家庭に輸送し、末端で燃焼させて利用する」というエネルギー供給システムを提案したら、

これだから素人は!ガスを漏らさないパイプのシステムの製造・維持コストを考えてくださいよ。知らないでしょうけど、液体である水とは気密性の確保の難易度は段違いなんですよ。

とか、

事業性があるなら私企業が実装を試みることに、まあ私としては反対しませんよ。でも、それで火災が増えるなど、公共の安全に影響を与える可能性はゼロではありませんよね。そうならないと保証できるかどうか、議論はそこからですよね。

などといった反論が渦巻いて全く話が進まないのでは?提案者は「諸外国では都市ガスなんて常識なのに。これだから日本は……」などと言っているかも。

 ここでタイトルを回収しましょう。こんどは自動車の「自動運転」が受け入れられてきた別世界を想像してみます。その世界の住人はどんな議論をしているのでしょうか。

 

Gas_tank_20251016203301

続きを読む

デジタル画像の縦横比(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 私たちの身の回りにあるいろいろな製品を形作っている材料、昔は自然に存在するものを加工して用いていたのですが、現在では化学的に合成されたものも多く利用されています。

 化学的に合成された、ということは原子の組み替えの結果として生じた物質ですから、化学反応が起こっていたとき、その物質は液体か気体か、ともかく固体ではなかったはずです。その一方で実際に使われる材料は基本的には固体である。こう考えると、材料を作成する際、液体か気体、つまり流体の状態で反応を起こし、その後で固体を形成させる必要がある、つまり流体から固体が発生するプロセスが材料製造には必須である、ということが分かります。

 流体から発生する固体はどんな形をしているのでしょうか?できるものの性質や周囲の環境などいろいろな影響があり得るのですが、シンプルに均質な流体から固体が発生するとしたら、どの方向にも特徴の無い形状、つまり球体の物質ができることになります。

 雪の結晶など、すぐに例外を思いつくことからも分かる様に、流体から発生する固体が常に球体という訳ではありませんが、球体になっている場合も少なくありません。そして球体の固体をみると、反応から固体の生成まで、このプロセスは均一な状態で進行したのだな、という情報を読み取ることができます。

 ところが、ある日、球体ではなくて楕円形(正確には回転楕円体ですね)の固体がたくさん写っている電子顕微鏡の写真を見つけました。しかも方向がすべてきちんと揃っている。いったいこの固体はどんな環境で発生したのでしょうか?

Photo

真球(左の画像)を少しいじると回転楕円体(右の画像)に…。

続きを読む

より以前の記事一覧