解説

「人口論」と「成長の限界」(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 昨日の記事ではマルサスの「人口論」について紹介しました。「人口増加は幾何級数的」であるから、食糧生産の限界によって必然的に飢餓をもたらす、という内容は、実は1972年出版の「成長の限界」とよく似た部分があると思います。と言うか「人口論」は「成長の限界」よりずっと以前に書かれているので「成長の限界」が「人口論」を前提としているのですね。

 両者に共通するのは「幾何級数的」あるいは同じ事ですが「指数関数的」な成長の特徴、というか恐ろしさでしょう。「人口論」では人口が単体で議論されますが、「成長の限界」では人口に工業生産を含めた文明の規模が対象となっています。いずれも「幾何級数的」「指数関数的」に成長する特性を持っていて、早晩限界に到達する。野放図に成長がつづけば、それが限界に達したとき、悲劇的な形、具体的には多くの人の死、という形で成長が抑えられることになる。この議論はどちらの書物にも共通しています。

 では「成長の限界」はどこが新しかったのでしょうか?

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国連食糧計画(WFP)が作成したハンガーマップ(世界のどこで飢餓が深刻なのか、を示した世界地図)です。世界では8億人以上の人が飢餓に苦しんでいます。

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プラスチックのいろいろなリサイクル(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 プラスチックのリサイクルについて、以下の様な話を聞いたことはありませんか?

 プラスチックは石油からつくるけれど石油のほとんどは燃料として利用されている。プラスチックのリサイクルをしても節約できるのは石油なのだから、プラスチックをリサイクルするのはやめて燃料として燃やせば良いのでは。

なるほど、一理ありそうです。でも「プラスチック循環利用協会」の資料をみるとプラスチックのリサイクル率(おっと、正確には有効利用率です。この点は後述。)は2016年の統計で84%に達していると言います。やっぱりプラスチックはリサイクルすべきなのでしょうか。それとも日本はリサイクルを重視しすぎて間違った選択をしているのでしょうか。

 答えは「リサイクル」という言葉の定義に関わっています。普通「リサイクル」という言葉を使うとき私たちが想像するのは「使用済みのPETボトルをそのままPETボトルとして利用する」というイメージではないでしょうか。例えば「リサイクルショップ」という言葉で使われている「リサイクル」は確かにこのような意味だと思います。でもこれ、正確には「リユース」ですよね。(「リユースショップ」と言うべきかな、と思って検索したら本当にあるんですね。こういう名前。)

 「リサイクル」という言葉をリユースと区別するなら、「使用済みPETボトルを溶かしてもう一度PETボトルを新しく作り直す」という意味でしょうか。でも、使用済みのPETボトルにはどうしても不純物が入り込むので、このような「リサイクル」を実現するのはきわめて困難です。実のところPETボトルに限定するなら可能なのですが、他のプラスチックが混ざってしまった場合PETボトルの成分だけを分離してリサイクルするのは非現実的です。

 このように厳密な意味でリサイクルを考えると84%がリサイクルされているというデータはにわかには信じがたいことに思えます。

 さてこの問題、ポイントは「リサイクル」という用語に「もとのプラスチック製品以外のものとして再利用する」という方法が含まれている、という点にあります。

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プラスチック循環利用協会「プラスチックリサイクルの基礎知識2018」より。

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食料自給率を上げよう、と言いますが(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 皆さんは「フード・アクション・ニッポン」という活動をご存じでしょうか。検索すればすぐに以下の様なホームページが出てきます。このホームページの中でフード・アクション・ニッポンとは、

日本の食を次の世代に残し、創るために、日本の食料自給率の向上を目指した国産農林水産物の消費拡大の取組です。より多くの国産農林水産物を食べることによって食料自給率の向上を図り、食の安全と豊かさを確かなものとして子供たちの世代へ引き継いでいくことを目指します。

と説明されています。農林水産省が主導する国産農産物の振興のための事業の様ですね。

 この活動の国産農産物の消費拡大までは納得できるのですが、そのあとにつづく「食料自給率の向上」という目標はどうでしょうか。今回は食料の自給率について考えてみたいと思います。

 まず、現在の日本の食糧自給率はどの程度なのでしょうか。これも検索すれば農林水産省のデータがすぐに確認できます。カロリーベースで38%、生産額ベースでは65%となっています。

 生産額とカロリーでは大きな違いがありますが、野菜など値段が高い割にカロリーは低い食品が多いこと、そもそも輸入食品が安いことを考えると、この違いも理解できると思います。

 では、この自給率は「問題」なのでしょうか。

 フード・アクション・ニッポンの立場は問題だ、というものなのでしょう。でも、どうして?

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消費税増税と知価社会 今年のカレンダーを眺めながら(江頭教授)

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 今年2019年、いろいろな行事が予定されていますが、中でも大きなイベントの一つが消費税増税ではないでしょうか。10月から8%の税率を10%に引き上げることが予定さています。

 消費税が上がる日程が近づくといろいろなモノやサービスへの駆け込み需要がひろがり、一時的に経済活動は活発になります。しかし、実際に税率が上がってしまうとこんどは買い控えが広がって景気が落ち込む、というのが考えられる推移です。増税前に大きくプラス方向に触れた消費は増税後には落ち込み、やがて元の水準に戻っていくでしょう。個人の立場からすると、今年は10月前までに欲しいものは買っておこう、とはいえまた欲しいものが出てくるのでいつかは10%の消費税を受け入れるしかない、ということでしょうか。

 この議論、特に間違っている点は無いように見えますが、じつは大きな仮定が隠されています。しかも妥当かどうか、怪しい仮定です。

 もったい付けずに言いましょう。消費者は増税されても同じだけのモノとサービスを消費するはずだ、という仮定です。税率が上がったら、上がった分だけ生活費を切り詰める人がいるのではないか。というか、そうする人が多いのではないでしょうか。そうなると上記の「駆け込み需要」はあるのですが増税後に落ち込んだ市況はもとには戻らない。そのまま恒久的に不景気になってしまう、というケースもあり得るのではないでしょうか。

 以前、「書評 堺屋太一著 「知価革命(PHP研究所)」 (江頭教授)」という記事の中で「知価」すなわち「知恵の価値」について紹介しました。

 

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アレニウスプロットと活性化エネルギー(江頭教授)

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 化学反応は一般に温度が高いほど早くなる。では、具体的には温度が何度上がると何倍になるのでしょうか?こんな疑問をもった昔の化学者の研究成果は一つの式となってまとめられ、現在でもその名前が残っています。それが「アレニウスの式」。具体的には以下の様な式です。

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式中のRTはそれぞれガス定数と絶対温度。Aは定数で、Eは活性化エネルギーと呼ばれています。左辺は反応速度の濃度依存性を除いた反応速度定数で、濃度一定の時の反応速度を比べた、とみても良いでしょう。

 温度 T が大きくなると (E/RT) は小さくなる。マイナスの符号がついた (-E/RT) は逆に大きくなるので exp(-E/RT) も大きくなる。この式は温度の上昇にともなって反応速度が速くなることを反映しています。

 この式の形、なんともややこしいのですが、これが実験に合うのだから仕方がないですね。我々の方が式を分かりやすく示す方法を探すべきだ、ということで反応速度のデータ整理ではこのアレニウスの式を念頭にアレニウスプロットというグラフが書かれます。

 アレニウスの式の両辺の対数をとると

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となります。したがって「1/T」をx軸に「反応速度定数の対数」をy軸にとったグラフをつくるとアレニウスの式に従うデータは傾きが E/R の直線になります。

 実際には温度を変えて反応速度を測定する実験を行い、得られた反応速度定数の対数をプロットする。まず直線になるかどうかでアレニウスの式に従うかどうかを判断。OKなら傾きから活性化エネルギーを求める、といった具合です。

 さて、ここでは「反応速度定数の対数をプロット」と軽く書きました。PC等が使える様になった現在では本当に簡単な作業なのですが、PCどころか電卓すらない時代にはどうしていたのでしょうか。対数表を読んで変換していた?いえいえ、「対数をプロット」するための特別なグラフ用紙を使っていたのです。

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パーセントとパーセント・ポイント(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

10%ポイント還元、実は9.1%割引なのですね。見かけより割引率が0.9%ポイント小さい、あるいは10%割引の91%程度の割引効果しかなく9%分は見せかけだ、という言い方もできるのです。

 これ、前回私が書いた記事の最後の部分なのですが、正直自分での何を言っているのかよく分からないのでは、と思います。ポイントは「ポイント」の使い方。いや、ポイント還元のポイントではなくてパーセントについてのポイントがお話のポイントだ、という...まあ、このぐらいにしておきましょう。今回のお題は「パーセント」と「パーセント・ポイント」の区別についてです。

 普通パーセントと言えば二つの数字の比率で、分母が100のとき分子がいくつか、という数字です。分母が100円で分子が8円なら8%。分母が100 kg のとき分子が 10 kg なら10%といった具合です。パーセントをつかって増減を表すこともよく行われています。100円の商品に8円の税金がかかると出費は 8% 増えることになります。100 kg の体重の人が10kg減量すれば 10% 減、と言った具合です。

 ではパーセントとパーセントの比率を考えるとどうなるでしょうか。

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10%ポイント還元は10%割引ではない件(江頭教授)

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 「○○カメラ」というお店の主力製品がカメラではなくなったのはいつの頃からでしょうか。家電製品からパソコン関係、携帯スマホと広がって今では化粧品やおもちゃ、一般的な家庭用品まで売っているお店がたくさんあります。この手のお店のサービスで特徴的なのがポイント制度。昔のように「三割四割引は当たり前!!」ということはなくなりましたが、今では8%や10%のポイント還元が当たり前になっています。

 最近、乾電池やらFAXリボンやら細かい買い物を頼まれてふと思い出したのがのがこのポイントのことです。そう言えばいくらか溜まっていたはずだ。これを機会にポイントで買い物をしよう。

 そう思ってお店に行ってポイントを使って気がついたのですが「ポイントでの買い物にはポイントがつかない」というルールがあるのですね。それはそうか。別に不満ではないのですが、これだと「10%ポイント還元」は「10%割引」とは微妙に異なる。ハッキリ言うと少し損、というか「10%割引」ほどお得ではないということになります。

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見たことありますか?四角い電池(江頭教授)

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 さて皆さん、写真の様な四角い電池を見たことがあるでしょうか?これは6Pとか006Pと呼ばれる形式の電池です。昔はラジオなどに入っていたものですが、最近はあまり見なくなった様に思います。でも実験で使う温度計やテスターには今でも利用されているので、私の研究室では少し買い置きをしています。

 この電池、一番の特徴は9Vという高い電圧を持っていることです。子どもの頃、大人が電池が生きているか(起電力が残っているか)を確かめるために電極をなめているをまねていろいろな電池をなめていたのですが、この電池をなめてひどい目にあったことをよく覚えています。+と-の電極が並んでいるので両方の電極を一緒になめることになってしまいます。9Vの電圧ですから普通は感電ショックは感じない程度なのですが、ぬれている上にきわめて敏感な舌でこれに触れたのですから堪りません。しばらく舌が引きつっていた記憶があります。

 ではこの電池、どうやって9Vの起電力を実現しているのでしょうか。起電力の大きな化学反応にはどんなものが...。種を明かすと実は簡単。この電池は1.5Vの普通の電池を6個直列つなぎしたものなのです。6Pの6はそういう意味だったのですね。この電池は「角形(積層形)」と分類され、マンガン乾電池を積層したものは「6F22」、アルカリ乾電池を積層したものは「6LF22」という記号がつけられています。

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グラフの原点はどこにとるべきか(江頭教授)

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 以前、アル ゴア元アメリカ副大統領の映画「不都合な真実」について紹介した記事で、ゴア氏が地球温暖化についての説明を「大気中の二酸化炭素濃度の上昇についてのグラフ」から始めている点を強調して、「わかっているな」と感じます、と述べました。

 このグラフの説得力、そしてこのデータを起点として地球温暖化に対して語り始めるゴア氏の視点の鋭さについては全く異論はないのですが、実は私は少しだけこのグラフに不満があるのです。

 このグラフの縦軸の原点、0になっていません。このグラフから

ここ60年で大気中のCO2の濃度は約4/3倍に膨れ上がった

などと結論づけることができるのですが、グラフを一見するともっともっと大きな変化を表している様にみえてしまいます。

 視覚的なインパクトを狙ってこのような書き方をしているのかもしれませんが、そういう姑息なやり方は返って内容への信頼感を下げるのではないか、などと思うのですが如何でしょうか。

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出典)気象変動監視レポート2014

全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイト(http://www.jccca.org/)より

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SDGs ゴール12「つくる責任 つかう責任」(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 今回のお題はSDGsのゴール12、「つくる責任 つかう責任」です。もう少し言葉を足せば「持続可能な消費と生産のパターンを確保する」となります。SDGsのゴールは多過ぎだ、中には意義が分からないものもある、と言ってきたのですが、これは入って良かったゴールだと私は思っています。

 ゴール12のターゲットは11個。どれも大切なのですが、中でも注目したいのがターゲット12.4

2020年までに、合意された国際的な枠組みに従い、製品ライフサイクルを通じて化学物質やすべての廃棄物の環境に配慮した管理を達成し、大気、水、土壌への排出を大幅に削減することにより、ヒトの健康や環境への悪影響を最小限に留める。

です。SDGs全体が2030年を期限としているのに対して、12.4の期限は2020年で。野心的なターゲット、ということもありますが、同時に比較的対策が進んでいる分野だという事情もあるのでしょう。

 具体的な内容は化学物質の管理、もっと端的に言えば公害の防止。世界のどこでも公害を発生させない、というターゲットです。

 温暖化問題とならんで、このような課題こそ国連が対応すべき問題である、と私は考えます。

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