解説

災害発生時の通信手段について(片桐教授)

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 先の江頭先生の「地震と夏みかん」に、大地震発生直後は電話が通じたが、その後通じなくなった、という話しが記載されていました。

 大地震などの災害発生時に電話回線が混雑し、つながらなくなる現象は「電話網のふくそう」と呼ばれます。NTTのWeb Pageには:

「交換機の一定時間内に処理できる能力を越える電話が集中することにより発生するいわゆる「電気通信網の渋滞」のことを「ふくそう」いいます。ふくそうは、電話がつながらないことにより相手につながるまで繰り返し電話をかけ直す行為により増大します。」

「このふくそうが集中的に発生すると、交換機の処理量も比例することとなり、電話の接続処理が滞るだけでなくやがては交換機処理自体が停止してしまう恐れがあります。このような状態が発生する前に異常を検知し、交換機の処理を守ると共にふくそう状態においても最低限の通信(警察、消防などの重要な通信)を確保するように必要な制御を行います。」

と書かれています。

https://www.ntt-east.co.jp/traffic/congestion_flow_index.html

 地震や災害発生時に、家族以外の方へ、心配だからと外部から「大丈夫だった?」と知り合いに尋ねる行為、不要不急の電話は控える方が良いようです。

 2018年6月18日07:58の「大阪北部地震」のとき、東大阪市に住んでいる、うちの大学院1年(応用化学)の長男の安否確認のために、電話をしたかったのですが、このような通信トラブルを招かないようにメールでの安否確認に留めました。

07:59「オヤジです。地震、大丈夫か?。返信よこせ。」

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湿度3%の世界(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 オーストラリアの内陸部にフィールドワークに行ったら気温が43℃だった!という話はこちらに書いています。余りのことにいろんな人にこの画像を送っていたのですが、そのうちのお一人からこんな感想をもらいました。

43℃も凄いですが湿度3%というもものすごい環境ですね!

なるほど。

 まず一つ断っておかなくてはならないのはこの温湿度計、実は湿度を3%まで正確に測定はできない仕様だそうです。このタイプのデジタル温湿度計では湿度が低いと「Lo」という表示になってしまうものもありますよね。

 さて、それを前提としてこの「湿度3%」という値を信じるとしましょう。この湿度はどのくらいの値なのでしょうか。例えばこの写真を撮った2019年2月23日11時、東京の気候は温度10.7℃、湿度 38% でした。(これはアメダスのデータです。)と言うことは「大気中の水は13分の1程度」ということなのでしょうか。

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歯ブラシ以前の歯磨き(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 先日紹介した「Dollar Street」、世界のいろいろな収入レベルの人たちがどのような生活をしているのか、を多くの写真でイメージさせてくるサイトです。家族のポートレートや住んでいる住宅、調理の様子など生活のいろいろな側面が写真に撮られているのですが、その中の1つが「歯ブラシ」でした。

 収入レベルの高い家庭では電動歯ブラシが写っている所もありましたが、最も広い収入層で使われていたのはプラスチック製の歯ブラシ。中所得高位層、中所得低位層では家族1人1人に1本の歯ブラシがありますが、低所得層では家族で共有している、というのが一般的だそうです。(これはハンス・ロスリング博士等の「FACTFULNESS(ファクトフルネス)」での記述に拠ります。)

 とは言えこの「歯ブラシ」、写真だけ見ていると収入レベルの差が大きくてもあまり違いが無い様に見えます。歯ブラシ自体は比較的安価なものである一方で多くの人が切実に必要としてる。だから収入レベルが低いところでも多くの家庭に置かれているのでしょう。逆に収入が少ないからといって歯ブラシにかけるお金を節約するのは、せいぜい家族で1本を共有するぐらいしか手段がない、ということかも知れません。

 さて、今回のお題はどうしてもプラスチック製の歯ブラシを手に入れられないひとについて。つまり、プラスチックが発明される以前の昔の人たちがどのように歯の手入れをしていたか、についてです。

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環境科学の憂鬱(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 地球温暖化は深刻な地球環境の問題です。パリ協定では世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃以下に抑える、という目標を掲げていますが、さてこの目標は「十分」だと言えるのでしょうか。

 「一日の中でも温度が20℃近く変化する日がある。だから2℃くらい大したことはない。」それはそうなのですがここで目標とされているのは平均気温です。例えば八王子の最高気温の記録は2018年7月23日の39.3℃ですが、これが41.3℃になる、ということだと考えると深刻です。それに温暖化による気温上昇は時間的にも空間的にも均一に起こる現象とは限りません。より気温の上がるところ、雨が多く降るところ、逆に寒気や干ばつに襲われるところもあるでしょう。

 では目標値はどうあるべきなのでしょうか。人間による地球環境への干渉を問題として位置付けるとすれば目標値はずばり0℃。産業革命前の水準を目的とするならば0℃以下が目標であるべきです。であれば人間は工業生産活動を直ちに中止し、この惑星の生態系の平穏を祈念しつつ西方浄土へと旅立つべきなのです。

 もちろん、これは理想論というより極論、はっきり言えば冗談ですが、でも「環境科学」という枠組みからはこのような答えしかでてこないのではないでしょうか。そう考えると「環境科学」は憂鬱な学問のように思えてきます。

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出典)温室効果ガスインベントリオフィス

全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイト(http://www.jccca.org/)より

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購買力平価のはなし(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 先日の記事「豊かな人、貧しい人-推薦図書「FACTFULNESS(ファクトフルネス)」追記」のなかで

この金額は購買力平価で補正されています。

という表現を使ったので今回は購買力平価について少し説明したいと思います。

 世界の人々が貧しいとか豊かだとか比較をしようとすれば円(あるはドル)だけで考えることができません。世界にはいろいろな通貨があるので、その換算をしないと比較はできないですよね。では、どのように換算するのか。

 真っ先に思いつくのは「為替レート」ですが、これでは生活実感と合わないことがあるのです。例えば海外に行くと「物価が高い」とか「安い」と感じることがあります。海外旅行で買い物をするときは為替レートに換金手数料がプラスされるので円に換算するとその分だけものが高くなるはずですが、それ以上に物価が高かったり安かったりするのです。

 私は研究の関係でオーストラリアに行く機会が多いのですが、オーストラリアドルは現在1オーストラリアドルが80円くらい。向こうのスーパーに行くとサラミソーセージが100gで1オーストラリアドル以下で売られていたりして激安です。さすが酪農が盛んな国は違うと思うのですが、その一方で500mLのコーラは安くても3オーストラリアドルで結構高い。ものによってそれぞれに日本との値段の違いを感じるのですが、この物価の違いを補正して、一定のお金、たとえば1米ドル、と買える商品の量が同じになるようにお金の換算をしよう、というのが「購買力平価」の考え方です。

 とはいえ市場に出回っている商品はいろいろ。「サラミソーセージ購買力平価」とか「コーラ購買力平価」とか、考え出すときりがないので普通は使われません。一般に「購買力平価」は平均の物価を用いて計算されています。(例外的にマクドナルドのビッグマックを基準とした購買力平価は「ビッグマック指数」と呼ばれて時々使われています。)

 さて、ではオーストラリアと日本の購買力平価はどのぐらい違うのでしょうか。

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豊かな国、貧しい国、中くらいの国(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

こちらの記事で紹介した人々の生活を収入に応じて4段階に分類する方法、提案者であるハンス・ロスリング博士が著書の「ファクトフルネス」の中で説明しているものです。その中では「1999年頃、わたしは初めて世界銀行の職員に向けて講義を行った」が、「世界銀行が「途上国」と「先進国」という言葉を使うのをやめ、代わりに4つのレベルを使うと公言したのは、最初の講義から17年も経った後だった」と述べられています。

 なるほど、最近は世界銀行も4段階で分類するのか、と関心したのですが、同時にどの国がどのレベルなのか、自分が良く知らないことに気がつきました。そこで少し調べた結果を紹介しよう、というのが今回の内容です。

 下の表がその結果です。これだけでも充分なのですが、まずは出典の説明を。この表は経済産業省が刊行している通商白書の2015年版からの引用です。この年の通商白書では「今後のグローバルな事業環境に影響を与えうるメガ・トレンド」と題して世界経済についての分析が示されていて、その中で「新興諸国経済の類型化」として示されているのがこの表なのです。白書にはこの表が世界銀行のデータから作られた、と記載されていますから、これもハンス・ロスリング博士の講義の遺産の1つですね。

 世界をレベル1「低所得国」、レベル2「下位中所得国」、レベル3「上位中所得国」、そしてレベル4「高所得国」と分類しています。この分類、境界の収入額がハンス・ロスリング博士の「ファクトフルネス」と違って一年当たりの収入がベースになっていますが、一日当たりに直すと2.9ドル、11.3ドル、34.9ドル。「ファクトフルネス」の2ドル、8ドル、32ドルと大体同じです。

 では表を見ていきましょう。

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抗ウイルス薬の進歩 江頭先生2019年2月8日ブログへの反論(片桐教授)

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 2019年2月8日ブログ「インフルエンザの季節ですね(part 2)」の中に、

その割に「人類がインフルエンザを克服」したようには見えません。昔は風邪だと思っていた病状にインフルエンザが多く含まれていた、ということなのでしょうか。それとも目立たないけれど進歩と改善がつづいているのでしょうか。

との記述がありました。これでもかつて創薬の現場に居た者としてはこの記述を看過できません。この記述への片桐の反論です。

 インフルエンザに関して言えば、この数年で極めて迅速に診断できるようになりました。また、治療も1996年のタミフルをはじめ数種類の特効薬により、高熱の期間は1〜2日に短縮され、患者の肉体的負担を減らしています。たしかにこれをもって「克服した」とはいいがたいかもしれません。しかし、確実に「克服」に向かっていると言えます。

 1918年に流行したスペイン風邪(H1N1種A型インフルエンザ)は全世界で5千万人から1億人の死者を出しました。推定罹患者数5億人ですから死亡率は10〜20%です。日本でも2300万人が罹患し40万人の死者を出したと推定されています。死亡率は約2%です。毎年インフルエンザの流行する日本では,それでも基礎的な抵抗力により、死亡率は低めになります。

 一方で、2009年に流行した新型インフルエンザ(同じくH1N1亜種インフルエンザ)では、全世界で14,000人の死者が出ました。死亡率は2〜9%と見積られています。スペイン風邪に比べると、少し下がっているものの、やはり依然として高率でした。一方で、日本での受診者数は2043万人でしたが、国内の死亡者数はわずかに68名だったそうです。死亡率は0,0003%です。この低い死亡率は、日本のインフルエンザ対策の飛躍的な進歩を示すと私は思います。その一方で途上国ではまだまだ先進医療を受けられなかったのではないかと考えます。SDGs的に見れば、今後はこの対策を先進国の限られた者だけではなく、世界中でその恩恵を共有できるようにすることをめざさなければなりません。

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少子化と「人口論」(江頭教授)

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 このところマルサスの「人口論」についての記事を書いているのですが、今回は「人口論」を現在の日本の状況と比べてみましょう。

 良く知られている通り、日本の人口は第二次大戦後から増加を続けていたのですが2008年以降減少に転じています。戦後の人口増加は「人口論」でよく説明できるのですが、問題は最近の人口減少をどのように説明するか、です。

「生活物資は等差級数的にしか増加しない。」

から、人口の成長は抑えられる、というのが「人口論」の説明です。ここで「生活物資」は具体的には食糧、あるいは農業生産物の事なのですが、まずこれは現在の日本では妥当ではない。確かに日本の食糧自給率はカロリーベースで38%と低い値ですが、これは残りの62%の食糧を海外から輸入することができている、ということでもあります。

 ではなぜ人口が減っているのでしょうか。

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日本の人口の推移(総務省「情報通信白書」より)

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「人口論」と「成長の限界」(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 昨日の記事ではマルサスの「人口論」について紹介しました。「人口増加は幾何級数的」であるから、食糧生産の限界によって必然的に飢餓をもたらす、という内容は、実は1972年出版の「成長の限界」とよく似た部分があると思います。と言うか「人口論」は「成長の限界」よりずっと以前に書かれているので「成長の限界」が「人口論」を前提としているのですね。

 両者に共通するのは「幾何級数的」あるいは同じ事ですが「指数関数的」な成長の特徴、というか恐ろしさでしょう。「人口論」では人口が単体で議論されますが、「成長の限界」では人口に工業生産を含めた文明の規模が対象となっています。いずれも「幾何級数的」「指数関数的」に成長する特性を持っていて、早晩限界に到達する。野放図に成長がつづけば、それが限界に達したとき、悲劇的な形、具体的には多くの人の死、という形で成長が抑えられることになる。この議論はどちらの書物にも共通しています。

 では「成長の限界」はどこが新しかったのでしょうか?

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国連食糧計画(WFP)が作成したハンガーマップ(世界のどこで飢餓が深刻なのか、を示した世界地図)です。世界では8億人以上の人が飢餓に苦しんでいます。

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プラスチックのいろいろなリサイクル(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 プラスチックのリサイクルについて、以下の様な話を聞いたことはありませんか?

 プラスチックは石油からつくるけれど石油のほとんどは燃料として利用されている。プラスチックのリサイクルをしても節約できるのは石油なのだから、プラスチックをリサイクルするのはやめて燃料として燃やせば良いのでは。

なるほど、一理ありそうです。でも「プラスチック循環利用協会」の資料をみるとプラスチックのリサイクル率(おっと、正確には有効利用率です。この点は後述。)は2016年の統計で84%に達していると言います。やっぱりプラスチックはリサイクルすべきなのでしょうか。それとも日本はリサイクルを重視しすぎて間違った選択をしているのでしょうか。

 答えは「リサイクル」という言葉の定義に関わっています。普通「リサイクル」という言葉を使うとき私たちが想像するのは「使用済みのPETボトルをそのままPETボトルとして利用する」というイメージではないでしょうか。例えば「リサイクルショップ」という言葉で使われている「リサイクル」は確かにこのような意味だと思います。でもこれ、正確には「リユース」ですよね。(「リユースショップ」と言うべきかな、と思って検索したら本当にあるんですね。こういう名前。)

 「リサイクル」という言葉をリユースと区別するなら、「使用済みPETボトルを溶かしてもう一度PETボトルを新しく作り直す」という意味でしょうか。でも、使用済みのPETボトルにはどうしても不純物が入り込むので、このような「リサイクル」を実現するのはきわめて困難です。実のところPETボトルに限定するなら可能なのですが、他のプラスチックが混ざってしまった場合PETボトルの成分だけを分離してリサイクルするのは非現実的です。

 このように厳密な意味でリサイクルを考えると84%がリサイクルされているというデータはにわかには信じがたいことに思えます。

 さてこの問題、ポイントは「リサイクル」という用語に「もとのプラスチック製品以外のものとして再利用する」という方法が含まれている、という点にあります。

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プラスチック循環利用協会「プラスチックリサイクルの基礎知識2018」より。

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