解説

自動化された天秤「直視天秤」(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 以前の記事で上皿天秤を紹介したのですが、構造が単純で分かりやすい代わりに、やはり扱うのは面倒な部分があります。特に分銅。管理が悪いと錆びてしまったり、軽い分銅が欠損していたり、なかなかやっかいです。

 そこで作られたのが「直視天秤」というもの。見た目は今風の電子天秤と同じでサンプルを乗せる皿が一つだけ。天秤なのに分銅を用意する必要がありません。実は「直視天秤」の支点から向こう側は機械の中に隠されています。皿をささえる「うで」の部分だけが外から見えていて、反対側のうで、皿、そして分銅も外部から見えないようになっているのです。

 直視天秤の分銅は機械の中に入れたままで、通常の使用では外に出すことはありません。機械の内側で上皿天秤と同様にサンプルと分銅の重さを釣り合わせるのですが、その動作をダイヤルの操作だけでできるようになっているのです。

 21世紀になってすでに四半世紀が過ぎようとしてる今この時、直視天秤を使っているひとはあまり居ないと思いますが、昔は化学系の実験室で多く使われていた様です。

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質量と重量の違いについて(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 重量と質量の違いについては先日の記事に書きました。

 私達は「力」を直接感じることができますが、質量を直接感じることはできません。ですから地球の重力によって物体が引きつけられる力をその物体の「重さ」として認識しています。しかし物理学を学習して運動方程式の「力」と「加速度」とを関連付ける係数として新たに「質量」の概念を知ると、いままで「重さ」として認識していた「物体のなにかの量」が重力による力、すなわち「重量」なのか、新たに知った「質量」なのか、混乱が生じる。でも、月面や宇宙空間など重力が異なる世界を想像すると「重量」と「質量」の違いが見えてくる。

そして

 月面や宇宙空間では「重量」は変化してしまいますが「質量」は変わらない。そのことを考えると、私達が「物体のなにかの量」として認識している「重さ」という概念に本当に相応しいのは「重量」ではなくて「質量」だ、ということに気が付く、という訳ですね。

 さて、今回はその記事を書いている途中で見つけた以下の論文を紹介したいと思います。

森 雄兒著

計量法改正がもたらした「重さ ・ 重量 ・ 質量」の混乱

物理教育 第 65 巻 第 1 号(2017)

https://www.jstage.jst.go.jp/article/pesj/65/1/65_20/_pdf/-char/ja

全文が公開されているので、詳しくは本文を読んで頂くとして、私なりにこの論文の内容をまとめましょう。まず、この論文の問題意識は1992年の計量法の改正に関するものです。この改正によって、それまで「重量」を意味していた「重さ」という概念が「質量」に入れ換えられてしまった、その結果生じた混乱によって物理の学習が困難になっている、というのです。

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上皿天秤が測定するのは重量か質量か?(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 「上皿天秤」はいまでも使われているのでしょうか?私が中学生のころには一番簡単な「重さ」を計る道具は上皿天秤でしたから、中学の理科の実験で上皿天秤を使った記憶があります。

 そう思って調べてみると「NHK for School」に上皿天秤の使い方の解説動画が上がっていました。「中学」と注記があるので、いまの中学生も上皿天秤を使うのでしょう。

 さて、なぜいきなり「上皿天秤」なのか、ですが先の質量と重量の話と関係しています。子どもの頃、「上皿天秤」は(重量ではなくて)質量を計っているのだ、という説明があったことを思い出したのです。

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重量と質量(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 1962年生まれの私は今61歳。私が子供のころには宇宙旅行を扱った子供向きの読み物がたくさんあった様に思います。アポロ宇宙船による有人の月面着陸が1969年だったので、それに会わせたブームがあったのでしょうか。

 さて、その中で読んだ話だと思いますが、月の重力は地球の約6分の1なので物の重さも6分の1になる。宇宙ステーションでは無重力なので重さはゼロ、という知識は小さい頃からありました。でも、

月面でも宇宙空間でも質量は変わらない

という話は中学か高校になってから知ったのではないかと思います。だって重さ、というか重量と質量との違いというのは分かりにくいものです。というか、そもそも力学を学ぶ前は質量という概念を(正確には)知らないのですから重量との違いを考える必要、というか機会がそもそも無い訳ですよね。

 私達は運動方程式

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について学んではじめて質量という概念にであう訳です。でもこの質量が重量とどう違うのか、という点に関しては多くの学習者が分かりにくいと感じるポイントなのだそうです。

 

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オーストラリア レオノラ の重力(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 昨日の記事で「じつは重力加速度は厳密には一定の値ではなく、場所によって変化する値です。」と書いたのですが、それで思い出したのが西オーストラリア州の内陸部、レオノラという町のことです。私は「乾燥地への植林による二酸化炭素固定」というテーマで研究を行っています。要するに沙漠の緑化なのですが、その対象地がこのレオノラという町でした。(下の地図の赤線の部分。小さな町なのですが領域でみると大きいですね。)

 さて、このレオノラの町の主な産業は牧畜ともう一つ、地下資源の採掘があります。最近はニッケルの鉱石を掘り出しているそうです。それもあるのでしょう、現地調査にゆくと乾燥地のなかでキャンプをしている集団に出会うことがあります。聞けば彼らは鉱床を探索しているとか。どうやって?最近は重力を測定することで鉱石がある場所がわかるのだそうです。

 はて、鉱床があると重力が変化するのでしょうか。重力は非常に弱い力で地球ぐらい大きな質量の物体の重力はそれなりですが、鉱床の重力なんか測ることができるのでしょうか?

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kgとkgf(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 今回のタイトル「kg」は「キログラム」と読んで質量の単位ですよね。これはSIの基本単位の一つですから今更説明する必要もないでしょう。(基本単位なのに「k」が付いているのは如何なものか、とは思いますけどね。)

 さて、もう一つの「kgf」を皆さんは知っているでしょうか。私は、まあ知ってはいたのですが恥ずかしながら「kg重」と書いて「キログラムジュウ」と読むのが正しいのだと思っていました。でもどうやら「kgf」と書いて「重量キログラム」と読むのが正しい様です。英語ならfは「force」の略で「キログラムフォース」となるようです。

 なんかはっきりしない書き方で申し訳ありませんが、問題は「kg」にはSIというちゃんとしたスタンダード、こうであるべし、というルールがあるのに対して「kgf」にはそれが無い。もっというとSI的には「使わないことが正しい」という位置づけなのです。

 おっと、話の肝心な点が飛んでしまいましたね。そもそも「kgf」は何なのか。これ、実は力の単位なのです。ですが利用は推奨されない非SI単位となっています。

 通商産業省(経済産業省の以前の名前ですね。)のSI単位等普及促進委員会名義の「新計量法とSI化の進め方 -重力単位系から国際単位系(SI)へ-」という資料には

従来は力の単位として、質量と同じ単位の“kg”が使用されていた。日本では、20年ぐらい前から力の単位に質量と同じ単位の“kg”を使用することに問題があるとして、工学単位系では“kgf”を使用して表すことが多くなった。この表示は、質量と同じ単位の“k g”と区別するためであり、SI化ではなかった。(同資料15ページ)

という記載があります。この資料が平成11年(西暦1999年)に書かれていますからその20年前といえば1979年ということになります。当時私は高校生でしたら、私が本格的に物理学や工学の勉強をしていたころには力の単位としての「kgf」は(SI化ではないとしても)使われていたのですね。

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醤油差しと洗びん(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 化学の実験と料理は少し似ているところがありますよね。という話でこちらの記事では液体の体積の量り方の例として化学実験でつかうメスシリンダーと料理で使う計量カップを比較してみました。

 で、今回は量を測る、という点からは少し外れますが液体を少量取り分ける器具を比較してみましょう。

 まずは料理で使うものとしては「醤油差し」がその代表でしょう。容器内に入れた液体を、容器全体を傾けることで出口(「くちばし」とかいいますね。)から出す、というシンプルなものです。操作は傾けるだけ。液体は重力によって流出します。傾ける角度によって流出する速度を微妙に調整することができるという優れものですね。

 とはいえ、以前は醤油を出したあと、くちばしに残っている醤油が容器の外部に垂れてくる、液だれという現象があって、結構不愉快に感じたものでした。最近はいろいろと構造を工夫して液だれの起こらない・起こりにくい醤油差しが作られているようです。

 でも醤油以外の液体に利用する場合もあるので完璧とは行かないでしょう。特に気になるのはラー油を入れて使う場合。どうしてもベタベタになってしまいますよね。

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「cc」って読めますか?(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 「cc」は「シーシー」と読みます。(「シーツ―」じゃないですよ。)

 さて、以前この記事で「立米」の話を書きました。「立米」はあまり知られていない言葉かも知れませんが、「cc」はもっと知られていると思います。「cubic centimetre」の略、「立方センチメータ」のこと。本来は「cm3」と書くべきですね。

 これも授業の中での話しですが「cc」と言ったところ、こちらも「高校までの授業では使われていないようで学生さんはきょとんとしています」という事態に。これには私の方も「きょとん」としてしまいました。

 cc は体積ので縦横高さ、それぞれ 1 cm の空間が占める体積です。この体積を表現するにはいまの高校の教育では 1 mL という用語を使うようです。 その影響でしょうか、最近は cc よりも mL の方がよく使われるような気がします。

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 大さじ一杯は 15 cc と昔は習ったような気がするのですが......。いまは 15 mL なのでしょうね。

 

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計量カップとメスシリンダー(江頭教授)

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 先日の記事で化学の実験での操作について

液体の「体積を測る」という操作にはいろいろなタイプがあり、そのやり方も化学実験独自のものと言えるでしょう。

と書きました。今回は、この液体の体積を測る操作について少し説明しましょう。

 まず、私達の身の回りで液体の体積を測る、という操作自体、どのくらい必要なものなのでしょうか。「コップ一杯」とか「バケツに半分」とか。あまり正確に体積を測るという場面は思い浮かばないのでは。場合によっては「ひたひたになるくらい」の様に絶対量ではなくて相対的な量だけが問題になるケースも多いでしょう。

 「化学の実験なんて料理みたいなもの」という言い方がありますが、一般の家庭で液体の体積を測ることが必要になる場面はやはり料理をする台所でしょうか。小さじ一杯 5 mL、大さじ一杯 15 mL など決まった体積を測る方法もありますが、任意の量を測る(というか測り取る、でと言うべきですね)とすれば計量カップが使われるのではないでしょうか。目盛り付きの透明な容器で、使い方は一目瞭然。入れた液体の量を目盛りで読み取るわけですね。

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化学実験の操作でも同じ機能をもった器具が使われています。

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"development"は「開発」か「発展」か(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 「あ! どっちもデス」

なんて言われると返す言葉もないのですが、これは一般的な話ではありません。「sustainable development」という用語の中の"development"、これをどう訳すべきか、というお話です。

 最近有名なところでは「SDGs = Sustainable Development Goals」がありますが、これの邦訳は以下の外務省の説明にもあるとおり「持続可能は開発目標」となっていて、development = 「開発」と訳されています。

 では「持続可能な発展」という文言は?探してみると「環境基本法」に「持続的発展が可能な社会」という理念が示されています。

 さて、両者にはどんな違いがあるのでしょうか。「持続可能」とわざわざ断っているのですから、気を緩めると「持続不可能」になってしまうものだ、と考えると分かりやすいと思います。

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