解説

カーボンオフセットとは(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 世の中には「カーボン○○」と名のつくものがいろいろあるのですが、今回紹介したいのは○○に「オフセット」といれた「カーボンオフセット」です。

「黒い色の印刷のこと?」

「いや、オフセット印刷とかじゃなくてですね…。」

カーボンはともかく、オフセットという言葉は耳慣れないのではありませんか?移す、移動させる、といった意味から転じて負債などを何かで相殺する、埋め合わせる、といった意味をもっています。

 そこで「カーボンオフセット」ですが「どうしても削減できないCO2の排出を、他の場所での削減や吸収で埋め合わせる」という取引と活動のことを意味しています。

 「自分はCO2の削減ができない、だから他の人にやってもらおう。」とは虫の良い話。でも、そこはそれ、ちゃんと対価は必要で、有り体に言えば代わりにお金を払うことでこの取引は完結します。

 逆に考えるとお金を払うだけでCO2が削減できてしまう。そんなにお気軽でよいのでしょうか?何となくずるをしているような、と感じるひともいるようです。

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図は農林水産省のこちらのページから。

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アンモニアはなぜ悪臭がするのか(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 先日の記事でフロンの開発目的が「悪臭のないクーラーの冷媒だった」という話を紹介しました。フロンが開発される以前はアンモニアが冷媒として用いられていたのですが、その毒性、そして悪臭が問題となったのだ、という話です。

 さて、ではなぜアンモニアは悪臭、というか嫌な臭いがするのでしょうか?

 臭いを感じる人間の鼻の受容体が云々、と始めるべきかも知れませんが、ここは視点を変えて進化論的な説明をしてみましょう。つまりアンモニアに悪臭を感じる個体の方が生き残る確率が高い理由を考えれば良いわけですね。

 まず第1のポイント。アンモニアは有害です。濃度が低ければ「臭い」程度で済んでいますが高濃度のアンモニアを吸い込んだりアンモニア水を浴びたりすれば死亡することもある。それほど危険な物質です。ですから低濃度のアンモニアでも敏感に感じ取って「臭い」と感じて避ける、あるいは警戒することができる方が生存に有利なのでしょう。

 とはいえ、有害だという理由だけでは不充分ですよね。どんなに毒性が高い物質でも人間(というか動物?)がその物質に遭遇しなければ進化には影響しませんからね。アンモニアは有毒な上に人間が良く遭遇する物質なのです。

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「バロメーター」という言葉 (江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 今は死語になってしまったのかもしれませんが、かつては「バロメーター」という言葉がありました。



拍手は人気のバロメーター



といった使い方をされていて、この場合なら「人気」の程度を示す指標、という意味です。


 もともとバロメーターというのは気圧計を示すことばでした。圧力の単位がbarですから、そのメーターでバロメーター(barometer)です。えっ、o はどっからきたのかって?圧力の語源がギリシア語のbaros(重さという意味)だそうですから、単位barの方がoを失っているのでしょう。


 では「気圧計」がなんで程度を示す指標なのか。温度計でも照度計でもよさそうなものですが...。


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これは研究室で最近購入した「バロメーター」。名称は「デジタル絶対圧計」でしたけどね。

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空気はカークーラーの冷媒にならないのか?(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 今回もカークーラーの冷媒のお話し。まず、フロンがカークーラー用の冷媒として利用されていたアンモニアの代用品として開発された、というエピソードをご紹介して(こちらの記事)、アンモニア分子同士の間の水素結合が冷媒として有用だ、という情報から、なら水素結合する水は冷媒にならないのか、という問題を考察しました。(こちらの記事。)水の場合は水素結合が強すぎ。だから常温付近でのクーラーには使えない、というのが結論になりました。

 さて今回のお題はもっと身近な物質、たとえば空気をカークーラーの冷媒にすることは出来なかったのか、というものです。

 まず一つ確認しておきましょう。カークーラーといわず、クーラーというもはヒートポンプの一種。つまり仕事を利用して(熱に変えて)低温熱源から高温熱源に熱を移動させる機械です。そのヒートポンプの冷媒、というか作動流体として空気が利用可能だ、というのは確かです。

 例えば有名なカルノーサイクル(ヒートポンプとして動作する場合は「逆」カルノーサイクルと言いますね)は理想気体の可逆プロセスだけで構成されたサイクルで、これでもクーラーの役割を果たすことができます。そして空気は常圧・常温付近ではほぼ理想気体と振る舞うので、逆カルノーサイクルのクーラーをつくれば空気でも動く、という事になります。

 なら何で……空気を利用したクーラーの能力は非常に限られたものになってしまうのです。
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本学応用化学科で利用しているアトキンソンの「物理化学 第10版」にあるカルノーサイクルの説明図です。

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水はカークーラーの冷媒にならないのか?(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 先日の記事ではフロンがカークーラー用の冷媒として開発された、というエピソードをご紹介しました。当時利用されていたアンモニアは有毒で悪臭があり閉鎖された自動車の車内を冷やす冷媒としては不向きだった、というのがその背景です。

 そもそもなぜクーラーの冷媒にはアンモニアが使われていたのでしょうか?それはクーラーが

圧縮されて液化したアンモニアを一気に膨張させると温度が下がる

という現象を利用しているからです。ではなぜ温度が下がるのか?

アンモニアの分子の間には強い引力が働いている。その引力に逆らって分子の間の距離が広がるとき、分子の運動エネルギーが失われる

からです。温度とは分子の運動エネルギーの指標ですから膨張すると温度が下がる訳ですね。

 ポイントは「分子の間には強い引力が働いている」ことです。ではなぜアンモニアの分子間には強い力が働いているのか?

アンモニアの分子の間には水素結合が生じているから強い引力が働いている

のです。

 さて、ここまで三回「なぜ」を繰りかえしたところで、アンモニアの代わりに冷媒となる物質を探すとなれば「分子の間に水素結合ができる」分子を探せば良いということになるでしょう。ならアンモニアより強い水素結合を作るという水で良くないか?

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カークーラーとフロン(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 「フロンはオゾン層を破壊する物質」という話、多くの人が聞いたことがある、何となく知っている、といったところではないでしょうか。温室効果ガスによる気候変動の影に隠れて目立たなくなった気もしますがオゾン層破壊も地球レベルの深刻な環境問題です。

 さて、この「フロン」について。まず「フロン」は一つの化合物の名称ではありません。「フロン類」ということもありますが、炭化水素をベースとして、その水素の一部がフッ素、あるいは塩素で置換された化合物の総称です。一般に無色・無臭・無害。この物質が最初に開発されたのはGM(ゼネラル・モーターズ)という米国の自動車会社のリクエストによるもので、1920年代のことでした。

 なんで自動車会社が?そう思いますが、そもそもの用途はカークーラーの冷媒だったとか。当時クーラーの冷媒としてはアンモニアが利用されていた。そして当時の技術ではアンモニアを配管のなかに完全に封じ込めることができず、ほんの少し漏れ出してしまう。アンモニアは有毒で強烈な悪臭でも知られています。カークーラーにアンモニアを利用すればどうしても自動車の車内にアンモニア臭がすることに。これじゃあドライブも台無しです。自動車会社のGMはどうしても無臭で無害な冷媒が欲しかったのでしょう。

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グローバル化と公害の輸出(江頭教授)

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 先日、本ブログの「化学工場と法規制」という記事で化学物質の製造に伴って発生する有害な副生物の処理についての考え方を述べました。化学物質を製造している工場から有害な副生成物が放出されると公害問題が起きる。これを防ぐためには法的な規制が必要だ、という話です。ここで重要なのは法的な規制はすべての化学工場、すべての化学会社に例外なく適用されなくてはならない、という点です。廃棄物処理を免れた化学工場が一部にでも存在を許されれば、真面目に処理を行っている化学会社は市場競争に負けて淘汰されてしまいます。

 このお話、一つの国の中の話として説明していましたが、現実の世界ではグローバル化が進行し、世界の市場は一つになろうとしています。一つになった世界の市場では世界中の国の企業(化学会社も含む)が自由な市場競争を行うことになるのですが、実は、ここで先に書いた「廃棄物処理を免れた化学工場が一部でも存在を許され」るという状態が発生する余地があるのです。

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スプレー式の発泡ウレタンはなぜ固まるのか(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 発泡している樹脂は発泡スチロールを始めとして見慣れたものです。高い断熱性を持ち、やわらかいので保温材や緩衝材として利用されています。

 スプレー式の発泡ウレタンは、その名の通りスプレー缶に入っている原液をシューとばかりにふき出すと、泡立った後に固まって発泡ポリウレタンができる、と言う便利な製品です。今回はこの製品の仕組みについて考えてみたいと思います。

 まず、スプレーから泡が出てくる、という光景はけっこう見慣れたものです。スプレー缶に加圧されて詰め込まれた気体と液体が大気圧に解放される。その瞬間に気体が膨張して液体と一緒に泡を形成する、というわけでここまでは特に疑問はなさそうです。

 問題は、というかこの製品の特徴は発泡したあとで液体が固まってウレタン樹脂になる、という点です。スプレー缶の中身は缶の中では安定していて、外にでた段階ではじめて重合を開始して固体となる。一体、この重合反応はどのようなきっかけで起こるのでしょうか。

 接着剤では2つの液を混ぜ合わせて固めるタイプの接着剤がありますが、あれは分かり易いですね。2つの原料分子が混合されることで重合がスタートする。ポリウレタンの場合はイソシアネートとポリオールの分子を別々の液に入れておいて混ぜ合わせれば良いわけです。

 でも、スプレー缶の中が2つに分かれていて出口で混合されている、と考えるのは無理がありそうです。缶のなかはシンプルな構造であり、一種類の液体がそのまま外部に放出されて重合が始まるのでしょう。では、その液体はどうやって缶の外にでたことを感知するのでしょうか。

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化学工場と法規制(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 「化学工場は何をするところですか?」 という質問に皆さんなら何と答えるでしょうか。



 原材料から有用な化学物質を製造している。



 素晴らしい。でもこの答えは50点です。


 原料から人の役に立つ物質を造る、このプロセスでは、大抵の場合別に役に立たない、そして時には有害な物質、副生成物も同時にできてしまいます。役に立たないからといって勝手に捨ててしまうことはできません。何かの方法で無害化してから廃棄する必要があります。そこまで考えると化学工場で行われていることは、



原材料から有用な化学物質を、副生成物から無害な廃棄物を製造している



となるでしょう。


 廃棄物を製造、というのは変な言い方ですが副生成物も化学物質の一種ですから、それを変化させるための作業が必要な点では有用な化学物質の製造と同じです。そのための施設も必要ですし、エネルギーも消費します。


 こう考えると化学工場を運営する費用の半分は廃棄物処理だ、というのは言い過ぎだとしても、廃棄物処理のコストがそれなりの割合を占めることが理解できると思います。化学工場は原則的には有用な化学物質を販売した費用で運営されているので、化学物質の価格には副生成物の処理費用も上乗せされていて、その割合は決して小さなものではない、ということですね。


 


 さて、ここまでは「副生成物の処理を行う」という前提で話をしてきましたが、誰かが副生成物を処理しないで捨ててしまう、と決めてしまったらどうなるのでしょうか。


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水俣病とアセトアルデヒド(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 水俣病の原因は水銀、それも有機水銀と呼ばれたメチル水銀が体内に取り込まれたことによる重金属中毒である、ということは良く知られていると思います。メチル水銀を放出したのはチッソの水俣工場だった、これも良く知られているのではないでしょうか。

 では、チッソ水俣工場では何を作っていたのか。正確にはチッソ水俣工場のどのプロセス、何を造るプラントからメチル水銀が流出したのでしょうか。ここまで来ると知っている、という人は少ないと思います。

 答えは「アセトアルデヒド」。アセトアルデヒドを造っているプラントからメチル水銀が流れ出たのです。(まあ、化学に詳しくないひとは「アセトアルデヒド」とは何ですか、となるだけでしょうが...。)

 さて、今回のお題。このアセトアルデヒドは今、どのように作られているのでしょうか。他のアセトアルデヒド製造プラントから再びメチル水銀が流出し、新たな水俣病を起こす可能性はないのでしょうか。

 まず確認しましょう。アセトアルデヒドは炭素、酸素、水素からなる有機化合物であって、水銀を含んではいません。アセトアルデヒドは当時、アセチレンと水を反応させて作られていましたから、原料物質にも水銀は含まれていません。

 当時のアセトアルデヒド製造プラントでは水銀は触媒として利用されていました。触媒は「自身は変化することなく、反応を加速させるもの」なので、本来はプラントから排出する必要はありません。水銀は安価な物質ではありませんから、廃液から水銀を回収した方が有利なはずなのですが...。

 実際に、水俣病が発生した当時、水銀を触媒として利用していたアルデヒド製造プラントは日本国内にも6基以上あったそうですが、メチル水銀が流出して水俣病が起こったケースは2件だけです。なぜ、こんな事が起こるのか、についてはこのページで紹介した書籍「水俣病の科学(西村 肇, 岡本 達明 著 日本評論社)」に詳細な考察が述べられていますので参照してください。

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